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第28回フラメンコ・ルネサンス21「新人公演」

日本フラメンコ協会第21回新人公演「選考委員講評」

選考委員(名前から各講評へリンク)

濱田滋郎(評論家・会長)[G,C]

第28回フラメンコ・ルネサンス21「新人公演」が、盛会のうちに、無事終わりました。ホッと胸をなでおろしています。何を今更大げさに、とお笑いになるかもしれませんが、催しの総括責任者という立場に身を置く者としては、会が終わりまで、なんら問題を生ずることなく順調に進められたというのは、たいへんに有難いことなのです。これも、出演者、多方面にわたる裏方さんたち、その他さまざまな関係者たち…皆さんがそれぞれの持場で、しっかりと責任を果たしてくださった賜物です。責任者として、あらためて皆様に心よりの御礼を申し上げます。本当に有難うございました。

出演者はバイレ・ソロが64名、群舞が4組、カンテが21名、ギターが9名。これまでと異なり初日の金曜日にカンテとギターそれに群舞をまとめ、土・日曜日をそっくりバイレ・ソロに充てるという形を今年はとりましたが、これについてはどのように感じられたでしょうか。選考に当たる理事たちのあいだから意見が出されての変更でしたが、一般会員の方がたからの御感想も、できればお寄せ頂きたいと思っております。

私は例年どおり、選考委員としてはカンテ、ギターの部にのみ参加し、バイレのほうは観るだけでしたが、もとより、すべてにわたって熱演を見届けました。その上での感想を申しますと、ここ何年かと同様、出演者たちの技術的水準は高いところを保持しており、充分に見甲斐はあるのですが、その中で、際立って個性的な印象を残される人(群舞の場合は、組)となると、余り見当たらないのです。フラメンコが他のどのようなジャンルにも増して「個」の発揮を旨とするアルテであることを思うとき、上記の傾向を打ち破って個性を輝かせる出演者が、今後、数を増してきてくれるならば…というのが、私の願いです。

バイレについてまず記しましたが、カンテ、ギターにおいても、やはり同様のことは言えると思います。年々数を増しているカンテの出演者たちも、ひと昔前に比べたら、問題なく水準は上がっており、発声そのものも、演歌風であったりクラシック風であったりする人が減じ、フラメンコ的になっていることが認められるのは確かです。が、その半面、声を張って強く歌い切ることにのみ意識を傾け、言わば“押しの一手”の感を与える人が多いのは、いかがなものでしょう。「歌」の極意は“押し”だけでなく、“押し”と“引き”の兼ね合いにこそある筈、カンテもその例外とはなりません。声を張っての迫力のみを追わず、抑えの利いた表現の魅力を、ぜひ会得して頂ければ、と思うのです。同じことは、ギターについても言えるでしょう。弾きまくるのではなく、硬と軟、ヴァイタリティとデリカシーの兼ね合いをうまく生かして、奥行きのあるトーケを創り上げて頂きたいと願っております。

さて、以上に注文のようなことばかりつい書きつらねましたが、今回も各部門に奨励賞、あるいは準奨励賞を受けた人びとが出たように、すぐれた成果を示され、立派に感興を伝えられたアーティストたちも、確かに在ったことは疑いありません。

選考委員を承ったカンテの部門では、21人中、委員たちの票が4人だけに集中したのは特殊なケースでした。私の感じたところを記すなら、中でも最もよく「自分のもの」としてカンテを歌われていたのは、齋藤克己さんだったと思います。ビダリータを歌われたのですが、とかくソレア、シギリージャなどのカンテ・グランデに傾きがちな演唱の中で、これは新鮮な選曲でもありました。フラメンコが人間の持つあらゆる心情を歌い表すものであるとするなら、こうした“軽い歌”に分類されるレパートリーも、それなりに大切にすべきだと思います。

なお、カンテで奨励賞を与えられた山本淳子さんは実は重病をおしての出演で、その後入院されたと、のちに知りました。どうか順調に回復され、フラメンコの世界に帰ってきて下さいますよう、心よりお祈り致します。

小島章司(理事長)[Bs,Bg,G,C]

<カンテ部門>
中里眞央:とても端正な唄いっぷりでした。今後もう少し深味とか余韻といった部分も研究して下さい。
遠藤郷子:声がとても良くコントロール出来ていて声楽的完成度も高いものと感じました。
深谷恵子:声が限りなく継がって行き、その内なるものをも呼び覚まして行くような唱法が素晴らしい。
山本淳子:中声域で続いている“レガート唱法”がとても美しく、声そのものも魅力的でとても佳良なカンテでした。

<ギター部門>
大場洋平:トレモロの連続が美しく響き、曲の中での“対比する力”を感じました。

<バイレ・群舞部門>
スタジオ“hermanas”:baston前半音が定まらない。後半machoの部分の高揚感が立ち現れる。
スタジオ Ánimo:肉体そのもののjonduraが必要。深く深くエネルギーがしみ亙って行くようなイメージトレーニングを心がけるのも良いかも。
ESTUDIO KEIKO Las TOMATE:フォーメーションを作って行くことも大事なことだが、本来の舞踊としての魅力をよく考えて下さい。
Las Ramitas:とても熟考されたダンスであった。高い舞踊性とフラメンコな味を魅せた。

<バイレ・ソロ部門>
【24日】
竹村歩:激情に走り過ぎずに軽妙さやもっと違った情感の表出も考えてみて下さい。
出水宏輝:軽快で酒脱さが立ち現れて、強弱も流れによく添っていました。“ひらめき”を感じさせてくれた。
橋田佳奈:踊りのミステリアスな部分がもう少し出せれば…。マントンと自分自身の継がりがもっと深まるよう。
伊藤明美:序破急が今少し足りないように感じました。
谷口祐子:マントンの使い方が優美でしなやかさが増し動きとの調和が美しかった。隙の無いとても優美な作品。
灘辺佳代子:軽快さが絶妙で心地良さをアピール出来ていました。
川田久美子:繊細さが踊りの隅々まで行きわたっていました。
山本由紀:もう少し抑制された部分が欲しい。作品全体が張りつめた感にならないように。秘する花を…。
平田かつら:もう少し自分が一番伝えたい部分を強調したら…。
中山みのり:シギリージャのもっと深い叫びのような所があれば…。
杉浦桃子:柔らかな風情が現出されていた。足音が少し正確さを欠いたか。
二村広美:緩急のつけ方がとても良かった。最後にバイオリンとのセッションがとてもよくシンクロしていた。
林由美子:呼吸が浅いように見受けた。下腹部まで息を吸い込むようにした方が良いと思った。
伊藤美恵:繊細で濃やかな表現は力みなく余韻を生み、coqueteriaやsonrisaも生まれた。
鈴木旗江:情感=思いが深く、静けさが漂う。回転の時の体幹を鍛えてもっと鋭さが増すように。
諸藤ふみ:瞬間の凝縮力は素晴らしく、圧倒するものとかそけきものとの二面性を表現、時を制御する力が素晴らしい。
持田賀津子:踊って行く中で、自分の思いが深い所がどこであるかをもう一度考えてみて下さい。
小川千尋:シギリージャの中の深いコンパス感がカンテの行間をもう一度よく聞いてみて下さい。
菊原まり:sonrisaが麗しさを生む力になっていた。
大津絵里香:身体全体のコントロールする力を高めてください。そうすることでシギリージャの持つドッシリした感覚もより高まるでしょう。
小野栄子:踊るエモーションが私の方に伝わって来ないように思いました。
近藤朔:brazosのしなやかさが美を生む根源となり、暗闇の中での動作に余韻を感じさせた。
大神明希:未だ少し生硬さを感じました。日々の精進を祈念します。
佐野裕子:静謐さを表現出来たと思います。タンゴスになってからの体使いが生き生きと輝いていました。
伊部康子:バックのカンテとギターに大きく支えられてソレアのスケール感が生まれた。
有田ゆうき:少し頑張り過ぎのように思います。顔の表情が少し硬くなっていたようです。訴求力の高さは抜群。
中村文歌:とても佳いソレアです。もっと深まって来ることを祈ります。
内田好美:序の部分から情感が溢れ出て、letraも素晴らしく、熟練の境地に達した入魂のシギリージャ。“感動”。
伊藤真由美:音楽構成が興味深く、光の衣裳も栄え佳作となる。ファルーカの持つ深いマルカーヘのパートが有れば…。
中里眞央:少し奇を衒い過ぎのように感じた。
河合浩子:全体に良く出来た作品である。もっと異次元での表現のあり方も考えてみて下さい。
湯田小百合:もう少しソレアの持つ大きさ、深さを考えて下さい。

【25日】
高尾優子:踊るということの基本をもっと深く追求して下さい。身体全部が繋がっていると言う事実と向き合うともっと自分が見えて来ると思う。
小宮山葉子:テクニックの組み合わせが似かよりがちになる。もう少し広範なパソやmontajeも考えてみると良いかも…。
岡田知子:もう少し体全体の体幹をしめて行く練習をしてみて下さい。後半cabalesになってからフィナーレまでが少し弱くなる印象を受けた。
加藤美佳:振付が未だ身体深くに入り込んでいない感じがした。
津幡友紀:熟考されたbaile。canteとの交わりもフラメンコの美を際立たせていた。
森永泉美:濃密さがもう少し欲しかった。Cadizの潮風に吹かれて踊るような気持ち…。
川口真理子:いつも中位の強さの踊り。remateもletraもやや平板なものになった。深く踏み込む力が必要。
平和美:<mucha gitaneria>が身についているものが頼もしい。舞台空間の中に切り込む肉体と精神性が輝いた。
橋本佳津枝:シギリージャが内包する重みや深さといったことを考え直して下さい。
岩丸綾子:とても自然発生的なmovimientosが心地良さをいざない、最後の引き込みまで持続、その心の強さを讃えたい。
小山理絵:もっと踊り込んだ時、もう一度見せて下さい。
沖山美環:振付が未だ身体にしみ込んでいないように見受けた。身体のlineaはとても美しい。踊り込んで下さい。
石黒裕子:踊りの起伏がもう少しあると良いな…。練習有るのみ…。
川恵子:自分自身の“身体のコントロール”がもっと必要。“心のおもむくまま”という感じにならないで。奔放さの中の細心も…。
脇川愛:流れが良く、起承転結がスムーズに運んだ。
池田理恵:長い時間踊り続けた証。あなたの人生の重みを感じさせる深い心のSoreaでした。
黒川あかね:もっともっと踊り込んで、身体の細部全てが語りかけて来るような踊りを目指して下さい。
稲沢静:canteとguitarraの強い吸引力に対峠する深い心の受けとめ方が求められますね。
大井昌子:“見せる”ということをとても感じさせてくれた。強い意志と雰囲気づくりに感動しました。
平川亜紀:安定感抜群。そのブレないムーブメントが継続。慈味と美しさの創出に成功。
鈴木雪花:長いbrazosが長身と共に映える美しいSorea。少し乱拍子の所があっても良いのでは…。
青木千鶴子:Cantes de las Minasの表現はとても難解のように思う。もう少し深い所に切り込んだ所があっても良いかと思う。
細川由香:agudoなpasoの時の音が少し気になる。もう少しlimpioなsoniqueteが出せるよう一歩上を目指そう…。
永田初恵:深みと軽妙さを使い分け、時にはコケティッシュな魅力をふりまき、バランスのとれた作品となった。
富沢良子:良くまとまってはいるがそれを突き破って進んで行くのも自分であろう…。
松下ひろみ:全身をよく使いこなし各部位の動きもスムーズであった。ちょっとした“ゆらぎ”や乱調もあっても良いのでは…。
本多清見:踊りが小さくまとまっている感じを受けた。1曲の中でどこに重きをおくかを一考して下さい。
齋藤朋之:“バーミった空間”の中にたたずむ静寂さがとても美しかった。手首と手の動きが何かを物語っていた。
多田つむぎ:喜びに溢れた時をつむぎましたね。
小林由佳:全身で歓喜を表していた。顔の表情が少しオーバーなような気もした。ブレリアに入ってから足音がややゆらいだように見受けました。
畑中美里:落ち着いたSoreaのムードがちょっと足りないように思う。vueltaの多用も少し気になる。
月城宏美:zapateadoの安定不足。palmasを打つ音“ソニケーテ”も自分の音としての魅力を引き出せていない。

山田恵子(舞踊家)[Bg]

毎回書いていますが、群舞はまず全員がきちんと揃う事。そして自己主張をしながら他のダンサー達と心の会話もし、踊る事です。

構成・振付はとても大切。それにギター、カンテ、衣裳、照明がひとつになって初めて作品になり、アートの世界を創り上げていくすばらしい分野です。

まずスタジオ“hermanas”のシギリージャは構成・振付が良かったです。独特な雰囲気を持つこの曲を1人1人が個性豊かに踊り、ダンサー同士の心のやり取りも見えてしっかりとした作品でした。

スタジオ Ánimoのソレアですが、皆さんきちんと真面目に踊っていましたが、この曲の持っている色彩を前面に押し出し、喜怒哀楽をはっきり表現して下さい。少し弱かったと思います。

ESTUDIO KEIKO Las TOMATEのアレグリアスは素敵な衣裳で迫力充分でしたが、残念な事は群舞が揃っていなかったことです。音は1つですから全員がきちんと揃ったらすばらしい炎の舞になったでしょう。お互いが合わせようと努力しないと人数が多い場面表現も難しくなります。

Las Ramitasのタラントは構成も良かったしそれなりに迫力もありました。この曲の持っている重みは他の曲にはない魅力です。最後のポーズですが、踊り切って深く体を沈めていく瞬間を大切にして欲しかったです。もう終わりという安心感が出てしまいましたね。全員が音楽を感じながら少しづつ息を抜いていって、1つの音でポーズ、息を止めるとすばらしい雰囲気が生まれます。お客様も観ながら呼吸しているので、こういうシーンを踊る時はとても大切だと思うのです。

参加者全員に拍手を!!お疲れ様でした。

三澤勝弘(ギタリスト)[G]

<ギター部門>

必ずしも的確とは言えない事もあるかと思いますが、私なりの感想を述べてみます。

・北岸氏:選曲のサンブラ、個人的には少し違和感を覚えました。より“フラメンコ”を表現し得る選択はなかったのか。ただ、その事は評価過程においては考えませんでした。好むところの違いはありますが、サンブラにおいてもフラメンコ色のより濃い表現も可能です。この点については他の出場者にも多々見受けられました。

・大場氏:全体が平坦になってしまった感がありました。力はあるのですから、捉えを大きく、音の出・色彩・空間などを考えることが望まれます。これもまた皆さんに伝えたいことです。

・島田氏:マエストロ・サビカスからのマラゲーニャス、当然の事ながらソロ曲としての形が整っていました。表現幅が少し小さいのか、いまひとつ豊かさに欠けました。実験的に、日々の研究段階ではオリジナルより大きな、多少勇み足をする位の捉え方をしてみるのも良いかと。

・内山氏:その達者さは十分解りましたが、ソロ曲としてはもうひとつ複層的なもの。敢えて言うと“歓びと哀しみとの狭間(迫間)”とでも言うことなのか。あるいはまたフラメンコ全般を見渡し、技術ではない精神的なものなのか。そういう方向での強化を望みたいと思います。

・北村氏:雰囲気的なものに流れてしまったのか、ソロとしては仕上がり不足な部分が見られた。それが作品・編曲上のものなのか、奏者の表現が問題なのか。この点は他の方々にも問うてみたいと思います。あと少しの捉え方のあり様で大きく進展することと思っています。

・池川氏:些細なことは別にし、とてもよい演奏でした。選曲のロンデーニャよりは、更に直接フラメンコと向き合えるものが良かったのではなかったのかと。音楽家としての姿も重要ですが、フラメンコ者としての面もやはり大切です。次にまたこれも多くの方たちに見受けられた事ですが、後半部の快テンポの部分が長過ぎ、1曲だけ、それも限られた時間でのソロとしては“楽”へ流れてしまった感が否めませんでした。

・岸元氏:確か以前出場された時も述べたような気がしますが、もっと大きく演奏世界を捉え、“ギターと私”から“私からギターへ、ギターから外へ”とでも言うのでしょうか。情の動きや幅のある演奏を望みたいと思いました。例えが良いのかどうか、見えない鉄砲玉よりも、ぐねぐね迫って来るのが見える弓矢の様な伝わりがあったら、と思いました。

・前田氏:それぞれの違いはあるのですが、前田さんも雰囲気的なものへの流れが目立ち、明確な主張に欠けてしまったのかという印象が残りました。“弾く”ということに気持ちが偏り(捉われ)、素直な味わいとの向き合いに少し足りなさを覚えました。自分の表現とは何か。先人たちの様々な世界に接し、見つめてみるのもひとつかと。次の段階への参考となるかもしれません。

時代なのでしょうか。聴き手との共存共有部への帰納が強く、“返答のない、あるいは期待できないかもしれない”ということへの問い掛けということも、個人的には必要なことかと思っています。

最後に、評価の対象外となってしまった秋山さんへ。共に有すべきルールは大切です。せっかくの才能が残念だと思います。また参加されることを願っております。

紙面の都合上辛口になってしまったかと思いますが、出場された皆さんは、それに負けない臆することのないだけの力量を持っているのです。

小林伴子(舞踊家)[Bg]

今回は4組の出場で、「奨励賞は1割程度」の規定があり1組の受賞となりましたが、それぞれに違った魅力があり選考にとても悩みました。

No.1 スタジオ“hermanas”「シギリージャ」リズムを共有しながら、各人の様々な動きを共振させる、フラメンコの醍醐味を、高いレベルで見せてくれました!

No.2 スタジオ・アニモ「ソレア」と題してあったので華やかでカラフルな衣装での登場に??だったのですが、後半皆で歌い始めてからの展開で納得しました。フラメンコを楽しんでいるチームに好感!

No.3 ESTUDIO KEIKO Las TOMATE「アレグリアス」オシャレなバタデコーラに真っ赤なマントンがとても華やかで素敵でした。皆んなで力を合わせて踊っている姿は個々の実力差が気にならない一体感を感じました。もう1組奨励賞が出せたら!と思いました。

No.4 Las Ramitas「タラント」気迫のこもった群舞、迫力がありました!残念なのは、皆さんよく踊っているのに、揃って同じ振りを踊る場面が多かったので、個々に踊り込んでいればいるほど、それぞれの呼吸の違いや実力の差が目立ち気になってしまった事です。

今田 央(ギタリスト)[G]

秋山裕基
今回一番野性的な演奏でした。個々のテクニック、特にp,i,pの連続のフレーズは高速なのにごまかすことなくクリアーに響いていたと思います。pが得意なのでしょうね。良い音で伸びていましたし、それ故低音弦のファルセータのタメも生きています。随所で弾かれるピカードも張りのある良い音でした。ただアルペジオはなかったですね。得意な面を押し出すのは良いのですがファルセータのバリエーションが少ないと思いました。あと繋ぎというかシギリージャのコンパスの部分がちょっと長過ぎですし、ゴルペがうるさいです。
今回時間オーバーで失格は残念でした。超過時間が尋常ではないため単なるミスか狙ったものかわかりませんがレギュレーションは守りましょう。

北岸麻生
今回奨励賞に推しました。最近では珍しいサンブラですがDmの縛りから抜けることなく緩急のつけ方、ダイナミクスで緊張感を保ったまま弾ききりました。中間部の単音フレーズ、コーダの畳みかけるような展開、曲としてよかったです。技術的には途中のトレモロの美しさ、低音のリガードのなめらかさ、前述の秋山さんと同じくpの音が冴えています。特筆すべきは和音を弾いたときの個々の音のバランス。ピアノやクラシックギター並みに良いバランスと音圧ですね。6弦のDが最後まで安定していたのも一曲勝負とは言え評価できます。
半面あまりにも端正でクラシックギタリストでも弾けるかもと思いました。ラスゲアード、アルペジオ、ピカード、アルサプーアが出てこないのでフラメンコとしていかがなものかとも思いました。曲の完成度がそれらを凌駕したので推した次第です。よりフラメンコな曲を引っさげて再登場願います。

大場洋平
昨年よりは完成度を上げてきましたが全体的に弾き急いでいる感じに聞こえました。トラディショナルなソレア・ポル・ブレリアだからゆっくりめでも大丈夫ですよ。テンポはキープしていてもアクセントのペソは必要です。説明が難しいのですが多くのファルセータが12拍めにのみ収束する感じのフレージングだったように思います。そのためPの音は昨年よりもかなり良くなっているにもかかわらず、せっかくの低音フレーズが浮かび上がってこなかったです。ちょっと惜しかったですね。コンパスの回しを意識してフレージングしてください。
出番が少なかったアルペジオは高音弦の響きが今一つクリアーでなかったですが、中間のトレモロは粒がそろっていました。ゴルペの音量バランスにも注意してください。

島田武
今回一番フラメンコを感じました。個々のファルセータの持つ力とちょっと雑だけど立ち上がりの速い音。昔のフラメンコってこんなんだったと思わせてくれました。所謂センティミエントを感じる演奏です。テクニック的な面ではアルペジオの各音の分離が今一つでそこだけ不明瞭な個所もありましたが他はフラメンコ的表現と結びついた良い音を出されていました。ファンダンゴ系だからかもしれませんが全体を通しての音量バランスも秀逸です。ただ個人的にはコンパスのあるものを弾いてほしかったです。リブレとはいえ内なるコンパスは回っている演奏でした。次回を期待しております。

内山友樹
今回も難曲で挑戦していただきました。これだけの難易度なのにほぼノーミスなのですごいテクニックをお持ちです。ただ毎回思うのはフラメンコの呼吸感が足りないというか。
民族芸能は結構予定調和の芸で、フラメンコでいえば皆が持っている共通のコンパスのイメージを納得させられないと肩透かしを食らったような気になります。今回の曲も1つのフレーズが複数のコンパスに跨りなかなか解決してくれないので、曲は美しいのですがアレグリアスとして入り込めなかったです。それでも確固たるコンパス感を持った上でそれに則って演奏していれば届いてくるものですが、それは本当に選ばれた人の領域です。
内山さんの技術と難曲に挑戦する姿勢は評価しております。最後の壁をなんとか克服してください。

北村海人
ヘレスというかモラオ系のブレリアですね。研究の跡が窺えますがまだ心地よいコンパスではないですね。ブレリアの刻みが一本調子でちょっとうるさいというか乱暴な感じです。全体の中でファルセータが占める割合が低いようにも感じました。ゴルペはあんなにイケイケで叩くものではないですね。ファルセータとの音量バランスも悪いのでいくつかのファルセータでは急に音がなくなる感じに聞こえました。そういう個所ではコンパスも曖昧になるのでパルメーロがいたらちょっと焦るかもしれません。pによるファルセータが多くバリエーションには欠けますが、おそらく他のテクニックもそれなりに習得されていると思います。ですからこれらの欠点はギターのテクニックとは関係なく、全てコンパスの捉え方次第で解決しますよ。まずは単純にリズムだけを刻む練習をしてください。

池川史洋
今回の出演者中一番の実力をお持ちであろう演奏でした。冒頭のリブレのパートからブレリアへの移行、後半のピカードの個所でちょっともつれましたが安定した演奏でした。テクニック、コンパス、曲の盛り上げ方、すべて私が今更講評することなどないです。じゃあ何故奨励賞に推さなかったのかというと余りにも楽曲として整い過ぎてちょっと単調に聞こえたからですね。どちらかというとバイレ向きのファルセータに思えました。ロンデーニャのチューニングは美しいのですが、ブレリアでエモーショナルに弾くのは難しいです。とは言っても私としては賞をさしあげられなくてすみませんという感じです。

岸元輝哉
あの難しいアレグリアスをコンパスの破綻もなくよく弾ききれたと感心しました。特にピカードは得意種目ですね。あのテンポで1コンパスまるまる4連で入れてくるのは自信もあるのでしょう。半面pはアルサプーアも含めちょっと頼りない感じでした。これだけの難曲をパルマ無しでコンパスを出すのは相当のテクニックと揺るぎないコンパス感が必要でしょう。ただすごく頑張って弾いているのですが、音楽が内に向かっていくようで聴かせるという意識が希薄だったようにも思えました。

前田雅俊
ちょっと不思議なイントロからブレリアの冒頭のフレーズまで、期待させるものを感じましたがその後残念ながら失速しました。ブレリアのリズムの部分が力で押していく感じですね。割と毎回書いていますが、アクセントを力で表現してはいけません。ゴルペもうるさいです。曲全体に占めるファルセータの割合も少ないと思いました。構成も最初のイメージが続くかと思いきやヘレス、モロンが混ざってまとまりがないように思いました。
ブレリアのリズムをもっと練習してください。現状、ファルセータとリズムの部分の音量差が大きすぎてファルセータが埋もれていますが、コンパスを裏で感じられると力まなくてもコンパスを表現できます。

岡本倫子(舞踊家)[Bs]

<バイレ・ソロ部門>
【24 日】
竹村歩さん:良く踊っていましたが動きが多すぎて身体をコントロールできていないのが残念でした。また、ファルダが上部から拡がりすぎるのが気になりました。
出水宏輝さん:フラメンコ性そして男性的なエレガンシアを兼ね備えた身体の動きがとても素敵でした。
橋田佳奈さん:振りを丁寧に踊っていて好感が持てました。もっと踊り込んで振りがご自分のものになることを期待します。
伊藤明美さん:安定感がありきちんと踊っていらっしゃいましたがご自分の個性がもっと出てくると素敵になると思います。
谷口祐子さん:また一段とバタ・デ・コーラとマントン捌きに磨きがかかって感心いたしました。ただ、表情(笑顔)も振りの一部になってしまっているのが残念です。
灘辺佳代子さん:素敵な振付なのですが目や口の動きが多すぎるためか動きが説明的に見えてしまいました。
川田久美子さん:しっかり踊ってらっしゃいましたがブラソとマノの使い方に工夫が必要と思いました。また、髪飾りが多すぎて衣裳とのバランスがとれていないのでご一考を。
山本由紀さん:カスタネットと身体の動きは素晴らしかったのですが「ペテネラ」を感じさせない動きと衣裳のデザインはとても残念ですし、コーラの扱いが乱雑だったように思います。
平田かつらさん:とても素晴らしいテクニックと集中力で感心いたしました。ただ、女性らしいいでたちに反するマニッシュな振りに多少違和感を覚えました。
中山みのりさん:平田さんへの感想と殆ど同じものを感じました。とてもお上手です。
杉浦桃子さん:恵まれた容姿で立ち姿が素敵でしたが、もう少し体幹を鍛えて肩の上がりや上体の揺れがない踊りを目指してください。
二村広美さん:安定した踊りはさすがです。ただ、過剰な表情がとても気になりました。
林由美子:昨年より一層進化した林さんに感動しました。
伊藤美恵さん:ギター、そしてカンテといっしょに踊ることで自然に出てくる表情で踊りましょう。
鈴木旗江さん:踊りはとても安定していたと思いますが、全体的に衣裳とのバランスがとれていない印象が強く残りました
諸藤ふみさん:やっと自然体のフラメンコが見られたという印象です。
持田賀津子さん:衣裳にも振りにももう少しフラメンコ性を感じさせる要素が必要です。
小川千尋さん:一生懸命踊っている姿には好感が持てました。身体の揺れが気になったので踊るための体幹づくりを頑張ってください。
菊原まりさん:素敵なアレグリアスでしたし黄緑の衣裳もとてもお似合いでした。ただ、髪飾りそして振りとのバランスを考えるとファルダのボリュームがもっとあったほうがより存在感のある一曲になったと思います。
大津絵里香さん:体幹を鍛えて安定感のある踊りになりますように。
小野栄子さん:とても楽しそうにグァヒーラを踊ってらっしゃいました。もう少し「ため」のある振りになるとフラメンコらしさが出てくると思います。
近藤朔さん:天晴です。
大神明希さん:上手から登場の歩き姿に存在感がありました。早い動きになった時に上体が少し前重心になるのが惜しい気がしました。
佐野裕子さん:落ち着いた大人の踊りを見せて頂きました。
伊部康子さん:とても凛とした踊りっぷりが素敵でした。
有田ゆうきさん:一段と存在感が増した踊りになっていて感動しました。
中村文歌さん:身体のぐらつきが多かったように思います。前重心にならないように踊る練習を積み重ねてください。
内田好美さん:身体能力の高さで美しくドラマチックなフラメンコで魅せてくれました。
伊藤真由美さん:ファルーカをマニッシュな振りでよく踊っていましたが、あの衣裳は振りにはそぐわない印象を受けました。
中里眞央さん:ソレア・ポル・ブレリアのリズムにのせたフラメンコではない踊りを見せていただきました。
河合浩子さん:顎、首が前に出てしまわないように体幹を鍛えることをお勧めします。
湯田小百合さん:直線的な動きだけでないフラメンコ的な身体使いを身につけほしいと思います。

【25 日】
高尾優子さん:華やかなバタ・デ・コーラとマントンのアレグリアスでしたがせっかくの大きいステージを使いきれず横移動の動きだけで終始したのは残念でした。
小宮山葉子さん:振りをきちんと大切に踊っている様子が好印象でした。
岡田知子さん:とても安定感と集中力のある良い踊りを見せていただきました。
加藤美佳さん:タラントにそぐわない衣裳でのステージは残念です。
津幡友紀さん:とても素敵なシギリージャでしたが横使いの動きに終始したのが気になりました。
森永泉美さん:時々リズムの不安定さが目立っていたように思います。
川口真理子さん:良く踊っていたように思いますがもう少し強さが欲しかったです。
平和美さん:ペソのある無駄のない動きで強いフラメンコ性を感じました。
橋本佳津枝さん:足が長い。抜群のスタイルのせいか重心が上すぎてマルカールがふをふわと軽い印象を受けました。
岩丸綾子さん:シンプルな振りながら、ペソと安定感そして絶妙な緩急で魅せてくれました。上手い!
小山理絵さん:肩に力が入りすぎて重心が上にいってしまいぐらつきが目立っていたように思います。また、足音がはっきりしないのも残念でした。
沖山美環さん:容姿端麗できちんと踊っているのですがファルダを捌くときのブラソの位置が上すぎて肩が上がってしまうのが残念。
石黒裕子さん:マノの使い方にまで神経を使われると表現が広がると思います。
川恵子さん:途切れることのない集中力で密度の濃い素敵なシギリージャを魅せていただきました。
脇川愛さん:常にリズムを感じさせる身体の動きは相変わらず素晴らしいのですが
顔と口元に力が入り、そのせいか前傾体勢での振りが多かったのが気になりました。
池田理恵さん:リズム感と緩急のある身体の動きが絶妙です。あの小さいチャレコでのマントン使いではアクシデントもありましたがそれを引いてもあまりある出来で「オーレ!」です。
黒川あかねさん:恵まれた容姿を生かして切れと溜めのあるフラメンコを目指して頑張ってください。
稲沢静さん:肩の上がりが気になりました。踊るための体幹を鍛えてください。
大井昌子さん:工夫のあとが見られる振りですがひとつひとつの動きに一貫性が感じられませんでした。チャケタ、アバニコの扱いも乱雑だったように思います。
平川亜紀さん:早いテンポでもペソがあり見応えある振りになっていましたが時々肩に力が入りすぎてしまうのが残念でした。
鈴木雪花さん:媚びのない凛とした存在感と緩急のある動きでとても素敵なソレアでした。
青木千鶴子さん:美しくエレガントなフォルムが素敵でした。テンポを上げる時の足の乱れが気になりました。
細川由香さん:テンポの変わり目の足音が不明瞭なのが気になりました。はっきりバックの方々に意思を伝えることが必要です。
永田初恵さん:衣裳はとても素敵でしたがタラントには不釣り合いと思いました。ステージでは衣裳選びも振りの雰囲気を左右するものとして検索することをお勧めします。
富沢良子さん:とても良く踊られていたのに止まりの部分でバランスが崩れるのが何ヵ所かあったのが惜しかったです。
松下ひろみさん:ペソはあるのに前半は少々動きに硬さが感じられました。タンゴに入ってからは緊張がとれたのかのりの良い動きでとても良かったです。
本多清見さん:今回は上半身の動きが硬い印象を受けました。
齋藤朋之さん:楽しませていただきましたが時々曖昧な動きがあるのが気になりました。
多田つむぎさん:アレグリアスらしい振りと衣裳でとても素敵でしたが可愛らしい沢山のお花の分量は半分に、そしてファルダにもう少しボリュームを持たせた方が振りがもっと活きてくるように思いました。
小林由佳さん:楽しいアレグリアスでしたが顔の表情が過剰なのは表現が押し付けがましくなるのでもっと自然に出てくる表情で踊っていただきたかったと思います。
畑中美里さん:下手から登場の時は体幹が緩んでいるかのように見える力の抜け過ぎた上体の動きとブラソ、首の揺れにもかかわらずその後、安定して踊り続ける全体の動きは不思議にとても惹き付けられるフラメンコでした。
月城宏美さん:美しく踊っていました。もう少し踊りにめり張りが欲しかったです。

片桐勝彦(ギタリスト)[G]

秋山裕基:左手のスラーや右手i指のかえしの音などがしっかり出ていてメロディーラインがはっきり聞こえてきました。更に、間(ま)や強弱をしっかりつけながらも、フレーズの間に入れるピカードやシギリージャらしいラスゲアード、a指のゴルペ音なども良かったので、制限時間超過が悔やまれます。強いて言うと、全体的に音色が硬めだったことと、演奏後になかなか立たずに座ったままだったことが気になりました。演奏面に関してはかなり良かったので、今後もこの調子で頑張ってください。

北岸麻生:準奨励賞受賞おめでとうございます。いい演奏でした。まず出だしの音色と音量、間と呼吸、共に絶妙でした。レの音まで下げた6弦もビビることなくハリのある音で終始安定していました。6弦と5弦のベース音を鳴らしながらの1弦のトレモロも粒が揃っていて、その間の4弦のアタック音も迫力があって良かったです。そして一転してトレモロ後の甘いメロディアスなカデンツからの静寂。その後の説得力ある単音弾き。後半に少しだけ同じトレモロを弾いた後に強いプルガールのフレーズを入れて、フィナーレに下降進行のピカードと最後のゴルペ。曲の構成も素晴らしかったと思います。曲の始めと終わりをしっかり弾いたことと、スラーなども含めた一音一音を丁寧に弾いたこと、そして加速の仕方やブレーキのかけ方が自然だったことなどが好感を持つ演奏につながったと思います。今後も期待しています!!

大場洋平:ソレア・ポル・ブレリアをアリーバで弾いたので、ソレアとブレリア両方のセンティードが感じられて良かったです。大場さんのブレリアは過去の新人公演でポル・アリーバとポル・メディオの両方を聞かせてもらってますが、今回はその集大成のような演奏だったと思います。トレモロ、アルペジオ、アルサプーアなどの奏法が全て織り込まれていて良かったのですが、裏のリズムからの細かいアルサプーアや速いピカードなども聞きたかったです。以前はメロディーと伴奏部分の音のバランスが少し気になりましたが、今回は良かったのと、音色や右手奏法のコンビネーションも良かったので、このまま頑張ってください。

島田武:マラゲーニャらしいラスゲアードからの始まりで、高音弦のつま弾きやトレモロなどもフラメンコの音色で良かったです。ハイポジションでのセーハも音がしっかり出ていたことや、メロディーも太い音で説得力がありました。途中と最後に出てくる長めのピカードも最後まで弾ききっていますが、他のim指のアポヤンドで弾く細かいメロディーやアルペジオ中のメロディーなども細かい部分まで丁寧に弾くことを心がけると、更に良くなると思います。

内山友樹:前回の講評で書いた内容そのままですので、載せておきます。「(前略)出演者全員の中で一番技巧的で難しいフレーズをよく弾きこなしていました。(中略)好演奏でしたが、全体的に音が細いのが一番気になりました。細かいフレーズが多かったので致し方ない部分もあるのですが、やはり音色は大事だと思います。(中略)ピカードも最後まで弾ききって音が出ていたのは圧巻でした。素晴らしかったです。去年のブレリアも今年のアレグリアスも(中略)演奏技術も素晴らしかったので、音色などの細かい事だけを注意しながら(後略)」。
今年はオリジナルではなくビセンテ・アミーゴのアレグリアスでしたが、よくこの難曲を弾ききりました。ただ原曲にはカンテ、パルマ、コーラス、ハーモニカなどが入っていてテンポも速いので、その違いが気になりました。フラメンコは譜面のある音楽でもなくテクニックを一番重視するものでもないので、ギターソロとは何かを再度考えてみてください。少なくとも歌ぶりなどは省いた方が良かったと思います。しかし、内田さんの好アレンジで歌が入っているようにメロディーラインが聞こえてきたことは素晴らしかったですよ。ギターソロに大切なものの順序などはありませんが、速いピカードなどの技術面のことを一度忘れて、音色、音量、呼吸、間、感情など違う側面からも追及する時間を作ってみてください。

北村海人:ブレリアのコンパスが良く出ていた演奏だったと思います。ただ全体的にコンパスを刻むだけの時間が長すぎて、ギターソロというよりはフィン・デ・フィエスタで歌や踊りの合間に弾いているギターのように聞こえました。北村さんには前述した内山さんへのコメントと正反対になってしまいますが、ギターソロの場合はコンパスを回すだけでなく、もう少しファルセータや技術的なものも見せる箇所を作って欲しかったです。テンポの速いブレリアという曲種でも、コンパスを刻む合間でのプルガールやラスゲアードでのフレーズだけではなく、ピカード、アルペジオ、アルサプーア、トレモロなども駆使しながらしっかりしたファルセータを弾くこともできると思います。音量も大きく、マイクの使い方なども上手で安定した演奏だったので、曲の構成をしっかり組み立てて頑張ってください。

池川史洋:池川さんも前回出場した時と同じ印象です。「出演者全員の中で一番音色も太くきれいで、安定した演奏だったと思います。(中略)オリジナリティーにも富んでいて、素晴らしい曲でした。強弱や呼吸も絶妙でコンパス感もバッチリだったので、(中略)奨励賞に値する好演奏で曲の完成度も高かった(後略)。」
全体的に落ち着いた演奏の中にp指のアポヤンドやim指のスケール、トレモロなど、しっかりした技術の裏付けがあっての強弱や呼吸間で、CDに録音してもおかしくない完成度だったと思います。今回奨励賞は逃して残念でしたが、このまま突き進んで行ってください。

岸元輝哉:ペぺ・アビチュエラのソレア、マヌエル・カーノのセラーナと続き、今回はペドロ・シエラのアレグリアスをよく弾ききりました。ただ、ずっと下を向いての演奏はもったいなかったです。下を向いていると、音も前に飛ばなくなると思います。途中2回出てくるピカードや最後のピカードも弾ききれていて素晴らしかったので、難しいペドロ・シエラの曲ではなく、もう少し簡単なものを余裕で弾けば全体的に安定した演奏になったと思います。

前田雅俊:印象的なイントロの後、アルペジオからのブレリア。センスの良い曲作りでした。プルガールでのフレーズをタイトなリズムにすることと、im指でのアポヤンドを正確に弾くことを目指してください。ラスゲアードはキレも良く、アクセントも付いていて良かったと思います。新旧織り交ぜたブレリアのファルセータでしたが、一曲にまとまっていて良い曲構成だったと思います。細かい音使いの箇所まで更に丁寧に弾くことと、ブレリアのコンパスの出し方を追求してみるといいと思います。

加部 洋(プロデューサー)[G]

<ギター部門>
今年のギター部門には大きな特色があった。それは、それぞれの出演者に自身のスタイルがあったことだ。お手本を忠実に弾くことで称賛された時代から、自身のスタイルを持つという変化は、この世界の成熟に違いない。気にとまった出演者を書きます。

秋山裕基君●時々セラニートを思わせる細かい音の綾織りが伝統を感じさせ、良かった。ただ、低音の細かいフレーズに曖昧なところがあった。しかし、よく歌うギターだった。北岸麻生君●変則チューニングのサンブラ。一番の特徴は、気持ちを深く入れ込んだ表現力で、誰にも似ていない個性があった。トレモロの低音部に味付けしたところが素晴らしかった。島田武君●サビーカスのスタイルを下敷きにしたマラゲーニャ。しかしサビーカスには似ておらず、伝統をよく噛み砕いて自分のスタイルで弾いていた。表現力もあり、上手い。北村海人君●へレス・スタイルのブレリアの雰囲気が身に付いていた。マイクに近すぎたため、音が割れてしまったのが残念だった。プルガールのフレーズで乗り切れなかった部分もあったが、モライートの乗りを出した時には、思わずニヤッとした。池川史洋君●いつも変則チューニングの深い音で勝負する池川君。毎回低音部の深い表現力には見事なものがある。しかし、トレモロの音の細さや、高音部のフレージングの曖昧さが残念だった。

齋藤克己(舞踊家)[Bs]

【24日】
1,竹村歩さん 全面的にテンションの強い踏風、腿が見えすぎだったのが少し残念。
3,橋田佳奈さん 振り付けをなぞっている。重心が高い。マントン使いは良かった。
4,伊藤明美さん 丁寧な踊りだが個性が見えない。
5,谷口祐子さん 上品で柔らかなバタ捌き。テアトラルな振り付けを自分のものにしている(1票)。
6,灘辺佳代子さん インパクトのある衣装。時々の表情が気になる。
7,川田久美子さん 笑顔が素敵だが踊りがまだ弱い。
8,山本由紀さん 露出度が気になって顔が見えない。頑張っているのに残念。
9,平田かつらさん 重厚で自然な表情、軸もしっかりしている。
10,中山みのりさん 頭が前に落ちています。ペチョアリーバで。
11,杉浦桃子さん クラシカルな舞踊。一生懸命さが伝わってくる。
12,二村広美さん 安定感のあるプロフェッショナルな踊り。白い靴は失敗。
13,林由美子さん 長いマントンシージョが動きを隠してしまい踊りが見えない。伸び盛りなのに非常に残念。
14,伊藤美恵さん 白の衣装をセンスよく着こなして曲をしっかりと把握していた。見応えがありました。
15,鈴木旗江さん 個性的だが衣装が邪魔して身体のラインが見えない。悲しい。
16,諸藤ふみさん 動けるので動いてしまう。立っているだけでフラメンカなのに。
17,持田賀津子さん フェミニンで繊細な踊り。
18,小川千尋さん 素直で伸びやかな動き。
19,菊原まりさん 自然な笑顔で健康的な踊り。
21,小野栄子さん 彼女に良く似合った振り付けでチャーミング。
22,近藤朔さん 踊りも構成も見事な内容。衣装のアイディアもデザインも素晴らしかった。天晴れ!
23,大神明希さん 華奢な身体をセンスの良いコーディネート。スピード感のある踊り。
24,佐野裕子さん シンプルな振り付けが生かされていた。また衣装もエレガント。
27,中村文歌さん 素直な踊りですが基礎力が足りない。
29,伊藤真由美さん 超個性的な衣装。踊りは上達している。
30,中里眞央さん 舞台アートではなく舞台のフラメンコを見せてください。
31,河合浩子 しっかりした踊りだがシギリージャの衣装ではない。
32,湯田小百合 とても静かなソレア。バックに全て委ねた様に見える。

【25日】
1,高尾裕子さん ムイフラメンカなバタ・デ・コーラで登場。キュートだが技術が足りない!
2,小宮山葉子さん 華やかで美しいがタラントの衣装ではない。
3,岡田知子さん 冒頭ミステリアスな雰囲気。何か予感させたのだけど、それで終わってしまった。
4,加藤美佳さん 装飾過多で損。カンテに負けている。
6,森永泉美さん しなやかでエレガントなアレグリアス。
7,川口真理子さん スッキリした素直な踊り。上達しています。
9,橋本佳津枝さん とてもスタイルが良いのに印象が残らない。
10,岩丸綾子さん 素晴らしいギターの旋律が流れていました。来年こそ!
11,小山理絵さん とても丁寧な動きでしたがカンテにくわれていました
12,沖山美環さん サパテアードに集中している時が美しかった。バックに素晴らしい音が聴こえていました。
13,石黒裕子さん しっかり踊れているので、少し衣装に工夫を。
15,脇川愛さん タラントの衣装ではない。もっとpecho arribaで。
17,黒川あかねさん 伸びやかな踊り、少し表情が…。
18,稲沢静さん バックの応援を力に上品に踊りをまとめ良い感じ。
19,大井昌子さん 迫力のある明るくダイナミックなロメーラ。
20,平川亜紀さん 素敵でした(1票)。
21,鈴木雪花さん 長身をいかしきれていない、期待。
22,青木千鶴子さん 無難にまとめた仕上がり。個性が必要かと。
23,細川由香さん 後半が乱暴な動きに見えた。情熱的ではあるべきですが。
24,永田初恵さん タラントらしい衣装を着ていれば評価は変わります。姿が良いのにもったいない。
25,富沢良子さん 自然な流れの振り付け。とても良い感じのソレア。
26,松下ひろみさん 全て整っているのに何か足りない。
27,本多清見さん 細かな工夫は見えましたが、あまりにも地味な動き。もっとビビットに!
28,齋藤朋之さん フラメンコを愉しんでいる様子が良い。技術と知識が不足。
29,多田つむぎさん お洒落な装いでワイルド感のある踊り。足を出し過ぎ。
30,小林由佳さん びっくり箱から飛び出してきた様なアレグリアス。元気があって良いが、こちらは疲れた。
31,畑中美里さん 個性を生もうとする努力が見える。癖があって良い。
32,月城宏美さん 長身な美形。最後に水玉衣装、最高に似合っていました。

・内田好美さんの質の高いシギリージャに魅了されました。
・有田ゆうきさんがベストドレッサー。
・出水君の踊りに天国のpepaの大きなOleが聞こえました。

☆全体的に技術の不足よりも知識不足が目につきました。個性の無い人はいませんから、自己を見つめて各自の個性を踊りに込めてください。性格、体型の良し悪し、全て踊りの材料です。いま踊るために生きている方々のステージです!皆さんの更なる成長を期待し応援しています。

鈴木敬子(舞踊家)[Bs,Bg]

<バイレ・ソロ部門>
竹村歩さん:トップバッターでやりにくいと思われるが、特に後半良くなって会場の空気を変えた。全体的にパソの詰め込み過ぎが少し気になった。
出水宏輝さん:スペイン人のヒターノのような容姿。ハツラツしていて気持ちが良い。最後にもう少し驚かせてくれるところが欲しい。
谷口祐子さん:明るく華やかなアレグリアス。マントンをむやみにたくさん振り回して見えないように自分に合ったバランスの良い振り付けをもう少し考えられると思う。
灘辺佳代子さん:踊り慣れている感じで落ち着いて見えた。年々上達しているところがみられとても良い。
川田久美子さん:ブラッソや身体の使い方が大きくて良い。もう少しメリハリが出てくると更に良くなると思う。
山本由紀さん:しなやかな動きとパリージョの技術がとても良い。踊りや動きにも強弱があり曲の中に物語がみえた。今回の出演者のなかでも印象が強かった1人。
平田かつらさん:安定感がありフラメンコ的なペソもある。シンプルな中にムイ・フラメンコな要素がたくさん感じられた。とても好感が持てた。
二村広美さん:安定した技術。地味にまとまった感があるので、もっと爆発するような自分を崩すようなものをみつけられたら良いと思う。
林由美子さん:野性的な独特の雰囲気。特にレトラまでの前半が良かった。
鈴木旗江さん:安定したサパテアード。衣装がシージョのせいか首が詰まって見えた。もう少し爆発力があるとインパクトが出て踊りも印象深くなると思う。
諸藤ふみさん:力強い踊り。一定の表現ではなくもっと幅広いものに対応できるようになると更に良くなると思う。
菊原まりさん:アレグリアスを楽しんで踊っていて表情が良い。後半少し疲れが出た感じがした。
大津絵里香さん:ブラッソがしなやかで美しい踊り。少し不安定で身体がブレるところが気になった。
近藤朔さん:存在感があり踊りの中に人生を感じる。とても印象に残った。
大神明希さん:スリムなのに力強さがあり、サパテアードの足さばきが美しい。これからが楽しみな1人です。伊部康子さん:踊り慣れていて安定している。キレもあり良いのだが力の抜け感もみたい。引っ込みが少し急いでみえた。
有田ゆうきさん:集中力が途切れず、パワーのある踊りで引き付けられた。自分の力に負けて少しブレるところがあるので、コントロールできる余裕が更に欲しい。
内田好美さん:踊る身体が出来ている。キレがありしなやかな表現力もあり特に曲の後半熱くなり会場を沸かせた。
中里眞央さん:強い動きが印象的。カンテでも出演されていたが同じようなパワーがみえた。柔らかく細かい部分の表現が増えたら更に良くなると思う。
河合浩子さん:とても技術がある。曲の後半でテンションも上がりすごく良かった。首が動き過ぎて気になったところがある。
津幡友紀さん:パワーがあってテンションが高い。舞台の前の方にばかりいたので、もっと全体の空間を使って踊ると表現の膨らみが出ると思う。
平和美さん:ペソがありフラメンコ的な動きがとても上手い。とても自然な感じで良かった。
川恵子さん:踊り慣れた安定感のある踊り。サパテアードもリンピオで気持ちが良い。舞台を上手く使っていた。
脇川愛さん:サパテアードの技術がある。力の抜けた表現もみてみたい。
池田理恵さん:3回目に挑み「今度こそは!」という意気込みを感じた。集中力がある踊りで見ている人を引き付けた。最後少し帰りを急いだように感じた。
平川亜紀さん:ペソがありとてもフラメンカ。オーソドックスな振り付けがとても好感を持てた。また彼女の踊りを観たくなった。
鈴木雪花さん:スタイルが良く美しい。横と後ろを向く振りが多いせいか?全体的にもっと客席の方に訴えるエネルギーが出て欲しかった。
青木千鶴子さん:品の良い踊り。目標をもって毎回挑戦していることが素晴らしい。年々動きがペソを増し今回が一番良かった。
富沢良子さん:サパテアードがリンピオでとても安定感がある踊り。とても好感が持てた。また彼女の踊りを観たくなった。
松下ひろみさん:若いパワーがあり、後半にはタンゴを楽しんで踊っているのを感じた。
齋藤朋之さん:以前より切れ味が増し、人生を感じる踊りに引き付けられた。踊りの振付構成も彼に合っていてとても良かった。
多田つむぎさん:エネルギッシュで若々しい踊り。力の抜けた表現も加わるように頑張っていって欲しい。

<バイレ・群舞部門>
ESTUDIO KEIKO Las TOMATE:みんなハツラツとして良い。一人ひとりの技術はもう一息だが、凝ったフォーメーションを一生懸命に踊っていて好感が持てた。曲の後半の方でバラつきが少し目立った.
Las Ramitas:それぞれキレのある踊り。踊っているパソは様々でも、もう少し統一感が加われば、観ている人に届くエネルギーになると思う。

鈴木英夫(ギタリスト)[G]

今年は9人の参加者によって演奏されましたが、残念な事に1人時間オーバーで対象外になり、また奨励賞は該当者なしで準奨励賞という結果でした。決められた時間内で弾き、その中で自分を表現すると言う事も一つの技術。ただ早く弾ければ良い、長ければ良いと言うのではなく、それぞれの曲の形式、特徴、雰囲気を掴みその中に自分の個性を出して演奏する。それがフラメンコギターです。

演奏技術は皆それぞれかなりな水準に達しているのですが、早弾きに気を取られ肝心な音が聞こえて来なかったりしたのが残念でした。ギターソロとは言え、踊りなり歌なりの伴奏をしっかりと勉強して、リズム、コンパス、音の流れを掴みそれらをギターソロに反映させることが最も大切です。今回は皆それぞれ極差であまり差がなく、甲乙つけるのが難しかったです。今回は1人づつの講評ではなく、全体的に感じたものを書いてみました。皆さん、益々の精進でまたの挑戦を楽しみにしています。

鈴木眞澄(舞踊家)[Bs]

第28回新人公演にご出演くださいました方々、ご来場いただきましたお客様、関わってくださいましたすべての皆様、ありがとうございました。私の私見ですが、何かのお役に立てば幸いです。

【24日】
1.竹村さん…安定感があってよかったですが力を抜くところもあればよりメリハリが出ます。
2.出水さん…粋なアレグリアスを堪能させていただきました。ありがとうございました!
3.橋田さん…lamentoの意味をもっと考えては?マントンさばきが素晴らしかったです。
4.伊藤明美さん…丁寧に踊っていて好感が持てました。
5.谷口さん…アレグリアスがお似合いでした。心からのぎゅうっとした部分も欲しかったです。
6.灘辺さん…心が弾みましたが単調な感じもしました。
7.川田さん…ノリはよかったですが強弱をつけたら良いと思います。
8.山本さん…パリージョが素晴らしかったです。感情が見えないのが残念でした。
9.平田さん…毎年のご成長を楽しみに拝見しています。心が熱くなりました。
10.中山さん…安定していますがメリハリが欲しいです。
11.杉浦さん…動きは良いのですが唐突なところが多く気になりました。
12.二村さん…とても良く踊っていらっしゃるのにこちらの心に届いてこないのは何故か?私もとても悩みます。どうしたら気持ちが伝わるのでしょうか?
13.林さん…切れがありよかったですが表情が不自然な気がしました。
14.伊藤美恵さん…息をのむぬけがあり心が見えました。
15.鈴木旗江さん…成長が見えましたが訴えるだけでなく自分の中にためていく思いにも目を向けたらどうでしょう。
16.諸藤さん…ほんのすこしの心の持ち方が舞台に表れるのでしょうか?私には残念でした。
17.持田さん…フラメンコらしさをもっと意識してくださるとうれしいです。
18.小川さん…重心を落とすとより安定すると思います。
19.菊原さん…メリハリがあってよかったですがシレンシオはもっと動きを少なくしたらよいと思います。
20.大津さん…腕は空間を動かすような気持ちで使ったらよいと思います。
21.小野さん…ギター2台が踊りと相まってみなさんで作られたものがとても楽しかったです。
22.近藤さん…フラメンコに人生が表れていて背筋を伸ばして拝見しました。ありがとうございました。
23.大神さん…熱さがあってよかったです。
24.佐野さん…積み重ねられたものがとても素敵でした。
25.伊部さん…大人っぽくなって熱く力強く感激しました。
26.有田さん…いいソレアでストレートな思いが伝わってきました。
27.中村さん…素直な踊りに好感が持てました。
28.内田さん…素晴らしいフラメンコで三位一体になると誰が後ろにいたのかも意識がなくなることに気がつきました。
29.伊藤真由美さん…構成がよく物語を観るようでした。
30.中里さん…衣裳の使い方が凝りすぎているように思いました。
31.河合さん…小気味よい動きが素敵でした。
32.湯田さん…マントンは張るだけでなくドレープを持たせるところもあったらよいと思います。

【25日】
1.高尾さん…笑顔に不自然なところが見えて残念でした。
2.小宮山さん…唄やギターとともにある場面が少なく感じました。
3.岡田さん…踊りが上手いのに伝わってこないのはどうしてなのでしょう?
4.加藤さん…振りをコンパス毎に合わせているように感じました。
5.津幡さん…熱さは伝わってきましたが強い振りが投げ捨てているように感じて残念でした。これは私の好みの問題かもしれません。
6.森永さん…動きのアクセントは針で刺されたような全身がキュッとなる感じにしたらよいと思います。
7.川口さん…曲の場面で色を変えることを考えたらいかがでしょう?
8.平さん…フラメンコらしい踊りなのに心に響いてこないのはどうしてでしょう?
9.橋本さん…唄を心で受け止めていますか?
10.岩丸さん…唄やギターと気持ちのやりとりをしていますか?
11.小山さん…唄を聴いて何かを感じましたか?
12.沖山さん…椅子から始めた意味は何でしょうか?
13.石黒さん…唄やギターと気持ちのやりとりをしましたか?
14.川さん…素晴らしいギターの音で素で歩いてしまう気持ちがわかりませんでした。
15.脇川さん…面白い構成でしたが、音楽としてとらえていませんか?
16.池田さん…フラメンコを堪能しました!小物は不要と感じました。
17.黒川さん…唄を聴いていてよかったです。
18.稲沢さん…表現をするには母体となる身体と心の芯が必要かと思います。
19.大井さん…踊りは楽しかったのですがぎゅ~っと心をつかむところがほしかったです。
20.平川さん…三位一体の感じが素晴らしかったです。
21.鈴木雪花さん…中盤から舞台があなたのものになっていました。
22.青木さん…美しい殻に閉じこもっているように感じました。何もかも投げ出して訴えるところが欲しかったです。
23.細川さん…上半身で表現することを考えてみてください。
24.永田さん…唄を感じて身体を動かすということを考えてみてください。
25.富沢さん…空間の使い方がよかったです。
26.松下さん…唄やギターは音楽ではなくて生ものだと思うのですが?
27.本多さん…ぬけた時に重心を落とすとより大きな空間が動きます。
28.齋藤さん…舞台とフラメンコが大好きな気持ちが伝わってきて今年もうれしく拝見しました。
29.多田さん…とても楽しんでいらして素敵でした。もう少し動きを減らしてもよいかと思います。
30.小林さん…芝居っぽく見えて、自然な表情だけで充分素敵です。
31.畑中さん…技術の未熟さはあってもそのままの方向で成長を期待しています。
32.月城さん…重心を落として身体の芯をしっかり保つとよいと思います。

★踊りが上手くてもこちらに伝わってこないのは何故か、ずっと考えていました。素晴らしい唄を唄っているのに、素晴らしいギターの音色なのに踊り手を通しては伝わってこないのは何故か…1つ考えられるのは、踊り手自身が唄やギターに心を動かしていないからかもしれません。生の息づかいを感じてこそ三位一体になれるのか…。すべての動きに意味があると思います。この腕一本、この叫びとともに…。「仏作って魂入れず」という先輩の言葉にはっとさせられます。フラメンコの始まりである唄に愛情を持って踊っていきたいと思います。

曽我辺靖子(舞踊家)[Bs,Bg]

<バイレ・群舞部門>
スタジオ“hermanas”:各自の今持っている力はすべて出し切ったと思います。今後の更なる飛躍を望みます。
スタジオ Ánimo(チャフェイフラメンコ教室):初めのうちは緊張していたようですが、後半からのノリにリラックス感が出て、3人のチームワークの良さが出ました。
ESTUDIO KEIKO Las TOMATE:とても個性的なバタ・デ・コーラの衣装に赤のマントンを上手にこなし構成も良く、曲にピッタリでした。
Las Ramitas:フラメンコの要素がびっしり詰まった難しいテクニックをこなした5人の力量に拍手です。

<バイレ・ソロ部門>
【24日】
出水宏輝さん:踊りに対する真摯な気持ちが途切れず、パワー溢れるアレグリアスになりました。
谷口祐子さん:体の柔軟性を生かしたしなやかさに引かれました。
山本由紀さん:カンテと一体になった動きにパリージョが加わり、表現力が増しました。
平田かつらさん:力強いシギリージャに魅了されました。
二村広美さん:リズム感良く安定したサパテアード。タパとバイオリンの融合が印象的でした。
持田賀津子さん:確実に成長が感じられるソレアでした。
菊原まりさん:上半身の使い方が良く、アレグリアスのリズムが身体から湧き出ていました。
近藤朔さん:凛とした佇まい、身のこなしにオレ!
大神明希さん:サパテアードはリンピオ、身体の使い方も良く、ちょっとした動きにグラシアを感じました。
佐野裕子さん:カンテを聞きながら登場し、自分の世界観を広げていったティエントでした。
伊部康子さん:自信に溢れたサパテアード、ぶれることなく踊り切りましたね。
有田ゆうきさん:心の強いソレア、前回より深みが増しました。
内田好美さん:内なるものを感じさせ、緩急の表現が抜群で素晴らしい!

【25日】
高尾優子さん:身体のしなやかさを生かしたシレンシオの表現が良かった。
津幡友紀さん:足の強さ、リズム感の良さは抜群でした。
平和美さん:何かを持っている人。奥深さを感じたソレアでした。
橋本佳津枝さん:強さだけでなく、上体、ブラッソとも良い。
沖山美環さん:サパテアードの作り方が印象的で、そこからの盛り上がりが良い。
川恵子さん:コンパス感を感じる踊り。特にカンテの表現が良い。
脇川愛さん:テクニックに切れ味のある動きが加わり、印象的なタラントでした。
池田理恵さん:実力のある人です。上手く乗り切り表現豊かに踊り切った姿に拍手。
稲沢静さん:エレガンテを感じさせる踊りに好感が持てます。
大井昌子さん:アバニコを使いこなし、なかなか味のあるイキなロメーラでした。
平川亜紀さん:パワーがあり、余すことなく踊り切った姿が印象的でした。
細川由香さん:シャープさが持ち味の踊りでした。
永田初恵さん:サパテアードが強く上体の動きも良い。
富沢良子さん:ゆったりと包み込む大きさのあるソレアでした。貴女の雰囲気にのみ込まれました。
松下ひろみさん:余裕を感じさせるタンゴが素敵でした。
齋藤朋之さん:3人の伴奏者と共に試行錯誤した跡がみられ印象的なマルティネーテでした。

高橋英子(舞踊家)[Bg,Bg]

<バイレ・群舞部門>
スタジオ“hermanas”/6人の清楚な女性たちによる優美なシギリージャ。後半バストンの響きを加え、女性たちの内に秘める強さを出してきました。画期的な見せ場はありませんでしたが、6者一体の綺麗にまとまった群舞だったと思います。
スタジオ Ánimo/小豆色の上下にそれぞれがデザインの違う赤いエプロンの3人娘。茶目っ気ある女の子らしい可愛らしさを後半のブレリアで出しました。フラメンコらしさを求めたちょっとした演出などもあり微笑ましい、よかったです。
ESTUDIO KEIKO Las TOMATE/白地に黒の水玉に赤いマンテージャで決め込んだフラメンカな女性たちによるトラディショナルなアレグリアス。出だしやエンド、全体演出の気配りもあり、現代風にまとまり群舞の躍動感があってよかったです。衣装の水玉が各自様々なのは、個性的なようで、逆に、視覚的にはバラバラのイメージにも繋がった感があったように思いました。
Las Ramitas/群舞として見た場合、今一なにか物足りないような気もしましたが、5人の女性の舞踊レベルも高く、ヒット曲を活かした音楽構成なども楽しめ、それだけでも見せられる素敵なタラントだったと思います。

<バイレ・ソロ部門>
【24日】
竹村歩/スラッとしてとても美しい容姿なのですが、没頭しずぎで押さえがきかず、踊りに粗雑なイメージが残った感がありました。
出水宏輝/とても新鮮、はつらつとしていて、振付も凝っているが丁寧に熟しているのが嬉しい、颯爽と去っていくエンドも決まっていました。
橋田佳奈/よく練習してきちんと踊っている感じで、一途で、好感持てる演技でした。
伊藤明美/しっかり目線を定めて堂々としていました。上体が硬い感じがしました。
谷口祐子/上体を後ろにケブラーダで倒した印象的なポーズの出だし、気持ちが踊りに表現されていてとても好感持てるステキな踊りでした。
灘辺佳代子/アレグリアスらしい優美さや品性には乏しい感じがしましたが、身体も快くリズムに乗っていてそれなりに楽しめる演技でよかったです。
川田久美子/美しい動きの中にフラメンカなところもありよかったのですが、どうも動きのない指先でクエルポ、ブラッソの豊かな表現を制限されている感じでとても気になりました。
山本由紀/フラメンコというよりはショー的なイメージ、感情込めて踊っていてつい魅せられます。黒ラメの衣装もステキでしたが、一本結びのヘアースタイルがどうも気になりました。
平田かつら/大きな身体を活かした表現はフラメンコなところもあり、また重量感ある演技、その筋の良さで今後が期待されます。
中山みのり/大人の雰囲気で迫っていました。重量感も有り、頼もしい、しっかりした筋の良さ、フラメンコなところもあってよかったです。
杉浦桃子/細身で、清楚なイメージがありとても美しい。テクニックはありますが、軽く飛んでしまう時があり、フラメンコな溜めこみが欲しいような感じがしました。
二村広美/出だしからいやに自信満々、ビックリしましたが、それなりの実力があります。終始過剰気味でもかまわず徹底して自分を押し出しているところがフラメンカ。かなり挑戦的なアプローチがありました。
林由美子/最初からとても気の入った演技、集中して最後まで頑張りましたが、もう少し肝心なところをおさえて押していってもよかったと思います。
伊藤美恵/とても美しい、笑顔が生きていて、愛嬌もあって表情豊かなアレグリアスでよかったです。
鈴木旗江/フラメンコ歴は長いのでしょうか、存在感がありました。ベテランの域で魅せました。
諸藤ふみ/体型の太さが動きを制限させてしまうようでそうじゃない、しっかりフラメンコに決めていてとても頼もしい、何か秘めたものを感じさせられてよかったです。
持田賀津子/まだこれからが楽しみですね、マルカールをしっかり勉強して美しい容姿に反映させてください。
小川千尋/まだまだこれから良くなりますので頑張ってください。
菊原まり/大人のムードでエキゾチックでした。パッと映える明るい衣装、現代風の腰づかいや、腕の振りまわし、男っぽい振りを粋な感じで熟していてよかったです。
大津絵里香/かなり細身のようですので、ボリュームある衣装でもいいですね。気持ちを込めていましたが、まだ踊りもか細い、これからです、頑張ってください。
小野栄子/清楚なイメージ。白い衣装とオレンジのアバニコも可愛く、ステキな構成のグアヒーラで、音楽共々明るく楽しめました。演技にちょっと平坦さもありましたがとても綺麗でした。
近藤朔/衣装も印象的で工夫が施され、照明も効果的でした。あまり体は動かさない代わりにブラッソやマノに神経が行き届き、サパテアードも無駄がなく要所を抑えていました。キリッとした体勢で堂々とした演技、よかったです。
大神明希/衣装もステキ、安定したテクニック、しっとりしていて力強いソレア、よかったです。
佐野裕子/嬉しくなる大人の味で迫るフラメンコ。ティエントの雰囲気にマッチした衣装も洒落ていてよかったです。
伊部康子/動きにキレがよく、綺麗。しっかりパソを決めていくオーソドックスな振りとオーソドックスな衣装。正統派の域で魅せられる芯のある踊りでした。
有田ゆうき/出だしから力が入ったジャマーダで終始パワフル。身体中でパワー炸裂、凄いテンションでした。ゴージャスな衣装で貫録ある踊りで魅せていただきました。
中村文歌/リズミカルなコンパスには乗っていましたが、まだまだ勉強できる要素が残っていると思いました。マルカール、ブラッソ、特にマノの動きにもっと気を配って欲しいと思いました。
内田好美/100%以上感情籠った演技。シャープで力強く、印象的なピト混じりで始まるジャマーダ。他にもインパクトある舞踊構成の中で十分に自分を出しきって、圧倒しました。
伊藤真由美/ステキな洒落た衣装で登場、ちょっともう少し舞台を広く使って踊って欲しい気がしましたが雰囲気あってよかったです。
中里眞央/踊り自体は上手く熟しているのですが何かちょっとモダンでシンプルな青い衣装がソレア・ポル・ブレリアのイメージと合わないのか、何なのか?惜しいです、釈然としない後味が残りました。
河合浩子/おとなしい感じの踊りでした。サパテアードが聞こえてこない、衣装が曲のイメージと合わない…改善できることもあると思いますので、今後も頑張ってください。
湯田小百合/板付きで椅子から始まりマントンを終始使った踊りでよく頑張りましたが、ちょっとおとなしい地味なムード、もう少し印象的な何かが欲しかったです。頑張ってください。

【25日】
高尾優子/出だしからのマントンの部分はよかったです。シルエットがとても美しい。指先が硬直しているように見えました。これからまだまだ良くなる要素をお持ちです。
小宮山葉子/チャーミングで大人の雰囲気、歌に合わせた振付をうまく熟していていい感じに踊られていました。
岡田知子/唄の雰囲気に倣った無理のないオーソドックスな振付が、全体的に品のあるしっとりしたシギリージャになっていてよかったです。とても落ち着いて踊り、後半の盛り上がりも自然でした。
加藤美佳/ゴージャスな衣装がステキでした。踊りはパルマやブラッソ、またしっかりタンゴのコンパス感も身に付けて欲しいと思います。頑張ってください。
津幡友紀/やさしく日本的なイメージですが気迫で押していく凄さを持っています。表情豊かで技術もあり、安心して見られる踊りでした。
森永泉美/見た感じがインド系の美しい容姿、白系のとても洒落た出で立ちでステキでした。きちんと踊っていてよかったですが、今後何か自分らしさみたいなものを追求して欲しいと思いました。
川口真理子/大人っぽいムード、細身できゃしゃな体型、ちょっと迫力に乏しいですがしっかり踊っていました。
平和美/落ち着いていて地についた踊り、豊かな感情表現、無駄のない要所を掴んだフラメンコな動きがよかったです。闘牛の振りも活きていました。
橋本佳津枝/すらっとした体型でブラッソも動きも綺麗です。今後、迫力や押し出しの足りなさ、表現力等を課題に頑張って欲しいと思いました。
岩丸綾子/ちょっと地味な、おとなしい演技です。フラメンコなところもあるので惜しい、もう少し大袈裟にやってもいいのではないかと思いました。タンゴの歌の展開、演出も効果ありでステキなタラントでした。
小山理絵/緑系の雰囲気ある衣装で見た目も美しい。清楚なイメージ。変な癖もなくきちんと踊っていました。これから伸びていくと思います。
沖山美環/大柄ですらっとした体を持て余していないところや、自分の世界に入ってしっかり踊れるところ等がよかったです。
石黒裕子/日本的なイメージが強いが、しっかり踊っていましたので今後も地道に勉強して欲しいと思いました。
川恵子/印象的な衣装、オーソドックスでスッキリ決まっている振付、シンプルな中に存在感ある踊り、後味いい演技でした。
脇川愛/豊かな表現力、常に観客を意識して問いかけるように振りを熟していく姿勢に温かさを感じる演技でした。
池田理恵/後ろVネックが印象的、なかなか洒落た衣装で登場。後から脱いだ上着のフレコにペイネータが絡まったのか、ちょっとハラハラさせられましたが、愛くるしい顔立ちと個性的な雰囲気あるフラメンコで魅せました。
黒川あかね/日本人離れの顔立ちで、衣装も変わっていたからでしょうか、不思議な印象がありました。ちょっと力んでいたような感じでしたが、今後も頑張って欲しいと思いました。
稲沢静/大人のムード。サパテアードなどはしっかりしていますがペソが不足、でも好感持てる演技でした。
大井昌子/オレンジ系の明るい衣装でロメーラ。もっと深いマルカールが欲しいところですが、愛嬌あって可愛らしく、おまけに小さなアバニコを出したり引っ込めたりする凝った振付をうまく熟していてよかったです。
平川亜紀/小柄のようですが、パワーがあってフラメンカなところがありよかったです。頑張ってください。
鈴木雪花/特に強烈な印象はないのですが、そつなく流れるように踊っていていい演技だったと思います。
青木千鶴子/大人のムードで安定した演技でした。出だしの効果的な照明演出で踊りの世界に引き込まれ、エンドの音楽構成もよかったです。
細川由香/自分の求めるフラメンコ、自分なりのアイレを追及している感じが受け取られ、誠実さが漂う踊りでした。
永田初恵/テクニックはしっかりしていて、随所で愛嬌見せるタンゴなど、親しみを感じさせる踊りでした。
富沢良子/パルマで始まる昔風の出だしが今日では新鮮でした。大きくチャーミングな目、落ち着いてしっかりとフラメンコなノリを出していました。
松下ひろみ/すらっと大きくしなやかな身体でしっかりアピール、いい雰囲気が伝わってきました。
本多清見/小さな身体でも舞台をしっかり広く使って頑張り、サパテアードも心地よく、ラストの演出も効果的でした。
斎藤朋之/ギター無しで唄とバイオリン、白い帽子が決まっている。あまり移動のない踊りですが、よくできた構成でじっくり観せました。安定した落ち着いた踊りでよかったです。
多田つむぎ/明るく華やかに押していく踊りで元気溌剌。でも時々それがうるさく感じられ、踊りが雑に見えたりもしました。何か気品あるところも見せて欲しかったように思いました。
小林由佳/表情が豊かでフラメンカになっている、明るく楽しい踊りでよかったです。ちょっと過剰気味な感じになるところを少し調整できるようにも思いました。
畑中美里/ちょっと荒削りな感じですが、颯爽とした踊り方。時々見せる個性的な身の熟しもよかったです。
月城宏美/すらっとしていて美しい。モダンな動きをそつなく踊っていてステキな印象がありました。

手塚真智子(舞踊家)[Bs]

出水宏輝さん:広い空間の使い方の研究を!
橋田佳奈さん:マントン捌きが生き生きと、美しかった。顔の表情が豊かになると良いと思う。
谷口祐子さん:エレガントなアレグリアスでしたが、腰がひけたように見えたのが残念でした。
灘辺佳代子さん:表情が良い印象を受けましたが、重心が浮くのが気になりました。
川田久美子さん:タメと解放感のバランスが良かった。ブラッソのしなやかさを見たかった。
平田かつらさん:足音の重厚感、全体の安定感があり良い踊りを見せて頂きました。
二村広美さん:後半につれて心の動きが見えるようでした。
小川千尋さん:足の打ち方の研究をすると全体の安定感も出てくるのでは?
菊原まりさん:表情、とくに笑顔が素敵で良いアレグリアスでした。奨励賞に選ぶかどうか本当に悩みました。
小野栄子さん:エレガントな終わり方が印象に残りました。
近藤朔さん:踊り、フラメンコに対する真摯な姿勢を感じます。ブラッソの遅れが気になる所です。
伊部康子さん:ソレアの深みと力強さを感じました。
内田好美さん:静と動のメリハリがあり、パソひとつ、動きの流れなどにご自分の解釈がきちんとあると感じました。
中里眞央さん:カンテ、にも挑戦されてその意気込みにオーレ!
高尾優子さん:最初のポーズが美しかった。
岡田知子さん:空間をよく使い堂々とした踊りでした。
津幡友紀さん:迫真の踊り!
平和美さん:オーレ!
川恵子さん:身体、足音、舞台の使い方見事でした。
池田理恵さん:瞬発力、バネがありとても良いバイラオーラです。今年は少し伸びやかさがなかったようでした。
大井昌子さん:笑顔に表情が良くまた、スタイルの良さもあると思います。体幹が出来たら更に良いと思います。
平川亜紀さん:貫禄!です。
青木千鶴子さん:毎回の挑戦に頭が下がります。引っ込みが良かったです。
永田初恵さん:タンゴのノリが良く引っ込み方も素敵でした。
富沢良子さん:オーソドックスな感じがとても好印象でした。
多田つむぎさん:バックとの調和がとれてみんなの力が一つになったアレグリアスでした。

花岡陽子(舞踊家)[Bs,Bg]

<バイレ・群舞部門>
1)スタジオ“hermanas”
息ぴったり。強弱が素晴らしい。エンディングの盛り上げも素敵。
2)スタジオ Ánimo
衣裳が面白いですが、振りに工夫が欲しいです。
3)ESTUDIOKEIKO
まさにアレグリアスを表現している。もう少し何かが…。
4)Las Ramitas
フラメンコの基本が出来ている。ハーモニーが欲しいです。

<バイレ・ソロ部門>
【24日】
竹村さん/欠点が少なく全体によくまとまっています。
出水さん/独創性のある、おしゃれなアレグリアス。
橋田さん/よく踊っていますが、情感が欲しいです。
伊藤明美さん/ていねいに踊っています。少し単調になります。
谷口さん/エレガンスなマントンさばき、柔軟な身体。
灘辺さん/ご自分のものにしています。もう一息。
川田さん/気持ちよく踊っていて欠点が少ないです。
山本さん/難しいパリージョとバタ・デ・コーラがんばりました。
平田さん/ボリュームがあり全体で踊っています。重厚感があります。
中山さん/欠点はありません。ステージをもう少し広く使って。
杉浦さん/柔軟な体、盛り上がりが欲しいです。
二村さん/サパティアートきちんと美しいです。カンテによく合っています。
林さん/サパティアートお見事、少し単調になります。
伊藤美恵さん/上半身が美しいです。他の曲でもきっと素敵でしょう。
鈴木さん/切れのよい強いサパティアート。あと少しです。
諸藤さん/精一杯、ご自身のフラメンコを踊っています。
持田さん/たくさん踊っていって。これからが楽しみです。
小川さん/難しいシギリージャに挑戦。ブラソが弱いかも。
菊原さん/明るいお人柄にアレグリアスがぴったりです。
大津さん/ブラソが美しいです。舞台を広く使って素敵。
小野さん/アバニコが美しいです。ブラソを工夫して。
近藤さん/今年も味のあるフラメンコを見せて頂きました。
大神さん/表現力があります。フラメンコ舞踊として美しいです。
佐野さん/体の中からわき出るような表現を工夫して。
伊部さん/ブラソの使い方が素敵。動きがきれいです。
有田さん/ティエンポよし、踊りが演奏者を引っ張っていました。
中村さん/欠点は少ないです。強さがもう少し欲しいです。
内田さん/物語を感じ、心に響き、感動しました。
伊藤真由美さん/ユニークな衣裳、発想が面白いです。
中里さん/面白いパソがいくつか。スカートさばきが気になりました。
河合さん/“動と静”静の部分に情感が欲しいです。
湯田さん/マントンを心の叫びになさったのでしょうか。

【25日】
高尾さん/気持ちよく踊っています。パソに工夫が欲しいです。
小宮山さん/ティエンポ正確。課題は盛り上がり。
岡田さん/重厚感があります。ステージの空間を工夫して。
加藤さん/これからもたくさん踊ってフラメンコ性、舞踊性を。
津幡さん/フラメンコアイレがあります。強い足!
森永さん/体幹がしっかりしています。エレガンスフラメンコ。
川口さん/すっきりとていねいにまとめています。ステージも広いです。
平さん/サパティアートで哀しみ、苦しみを表現しています。
橋本さん/指先まで気持ちが込められ、アイレを感じます。
岩丸さん/ティエンポよく、ご自分のタラントにしています。
小山さん/サパティアートに工夫があります。見ごたえがあります。
沖山さん/サパティアートだけでも立派に見ごたえがあります。
石黒さん/足は強いですが、上半身に工夫がほしいです。
川さん/ドラマ性があり、ステージを上手に使い素敵でした。
脇川さん/リズムが体に入り、踊り込んでいます。
池田さん/祈るように深く踊っています。時々荒れるように思います。
黒川さん/ボレロでユニークに踊り、美しかったです。
稲沢さん/舞踊性を研究して、ティエンポを上手に乗って。
大井さん/踊りが好き!が出ています。アバニコで楽しそうでした。
平川さん/サパティアートの成果が出ています。また飛躍して下さい。
鈴木さん/ていねいに踊っています。独自性を考えて。
青木さん/サパティアートが少し多いかも。今後は奥深さを表現して。
細川さん/よく踊り込んでブラソが美しいです。
永田さん/また今度もっと上級のタラントを見せて下さい。
富沢さん/全身でパワフルに力強く踊っています。
松下さん/強い弱いがきれいに出ています。衣裳がエレガントで素敵です。
本多さん/細やかに踊られています。強さが欲しいです。
齋藤さん/お人柄が出て暖かい作品になっています。バイオリンがよい味を出しています。
多田さん/ステージに花が咲いたよう。きれいなアレグリアス。
小林さん/寸劇をしているようなアレグリアス。ステージいっぱいに。
畑中さん/難しいパソを何気なく、クールに踊られています。
月城さん/曲想がよいです。血の騒ぐような表現を目指して下さい。

本間牧子(舞踊家)[Bs]

受賞者の中から、また私的に受賞をさしあげたかった方、心に残った方々を抜粋して書かせていただきました。
【24日】
7…川田久美子 アイレがあり気をてらわず心と体が共にコントロールされ落ち着いた踊りで大変好感が持てました。メリハリもう少しあると良いです!しっかり意識してエネルギー(パワー)の出し方を研究してみて下さい。
9…平田かつら 存在感と重み、みごとな空気感が作られ引き込まれました。強烈なエネルギー(パワー)を溜め、静止するメリハリがあるとより素晴らしくなると思います。
15…鈴木旗江 安定感とメリハリ、間合いも良く、強い意志と気持ちが伝わってきました。空気に体をゆだねるように少しゆったりすることも必要だと思います。
16…諸藤ふみ 全力投球、素晴らしいです。静と動のコントラストをしっかりつけると良いと思います。静かに歩く、立つ。それだけでアイレを感じさせることも大切です。
22…近藤朔 真摯にフラメンコと向き合う心の愛が、踊りのすべてに伝わり感銘いたしました。
23…大神明希 安定感、落ち着きがありマルカールもしっかり、丁寧な踊りに好感が持てました。今度は思いきりよくはじけてみましょう!
26…有田ゆうき 抜群の存在感、全力パワー!みごとな覚醒にひきつけられました。脱力を意識できると完璧な静止と素晴らしい空気感が生まれると思います。
28…内田好美 構成がとても良く、しっかりコントロールされた心と体から発せられるエネルギーをみごとに表現、素晴らしかったです。

【25日】
5…津幡友紀 パワーと気迫に満ちた体幹、静と動のコントラスト、隙のない踊り、素晴らしかったです。
15…脇川愛 体のキレが良くメリハリもあり、とても良く踊られていると思います。衣装はライトがあたるとイメージも変わり、曲調とずれてしまうこともあるので少し残念です。
16…池田理恵 安定感と重心移動、メリハリもあり、レトラ、レマーテ、素晴らしい空気感でした。
20…平川亜紀 アイレがありフラメンコを感じさせてくれました。ブレリア良かったです!構成も含めてメリハリをしっかりつけられるとより良いと思います。
21…鈴木雪花 安定感のある歩き方、静止、光りました。全体の流れのメリハリがもっとあると良いと思います。
23…細川由香 しっかりした意志のある表現とエネルギー、空気感が伝わってきました。マチョ、もう少し盛り上げたかったです!
25…富沢良子 力強さとゆっくりした動き、良かったです。アイレを感じました!抜けの後や静止の部分をしっかり止める意識を持つと良いと思います。
28…齋藤朋之 静から発せられる大きなエネルギー、ブラソの一振りに空気の色が変わりました。感動!
29…多田つむぎ ステージいっぱいに華がひろがり元気パワーがたくさん届きました!大地をしっかり踏みしめる意識を持つと、安定感のある迫力を感じさせられると思います。
30…小林由佳 アイレ、グラシアもあり、とても良かったです。体幹がしっかりしています!是非最後まで持続するコントロールを研究してみて下さい。

☆奥深いフラメンコの道に足を踏み入れた出演者の皆さん、そして私たち(時代は少し違いますが…)。この新人公演で、皆さんの熱い気持ちとたくさんの感動を共有でき、本当に嬉しく感謝でいっぱいです。迷った時は原点に戻り、また勉強しなおすことも新たな発見に繋がると思います♪踊りの原点、フラメンコの原点、気になるすべての原点に…私もまた原点に返ってみたいと思います。これからも皆さんの活躍を楽しみにしています。

渡邊薫(舞踊家)[Bs,Bg]

<バイレ・群舞部門>
4組とも、各々に傾向の異なった群舞で選考が難しかった。私は「スタジオ“hermanas”」を選びました。

・「スタジオ“hermanas”」
バストンを使ってのシギリージャ。サリーダは6人各人異なった出方で目を引いた。全員のテクニックレベルをふまえて振付されていて、無理なく踊っていたので作品としての好評価につながったと思う。振付者としては、もっとバストンを複雑に多用したかったかもしれないが、シンプルにまとめたのが功を奏したかも。
・「スタジオÁnimo」
カンテソロに合わせた静かな始まりは良かった。その後3人でのユニゾンの踊りが続いた。群舞としての構成、フォーメーションの工夫を。
・「ESTUDIOKEIKO Las TOMATE」
舞台をパッと明るくした。水玉のバタ・デ・コーラと赤のマントン、インパクト大でした。各人のテクニックレベルはそう高くない(!?)がそれを見せない振付。元気で勢いのある踊りだが、各所に雑さ荒さが見受けられた。私感ですが、バラ・デ・コーラには美しく結われたモーニョの方が、背中のライン、マントンとの対比がきれいに見えます。
・「Las Ramitas」
5人がそれぞれ踊れる人達の群舞だと思いました。でしたら、限られた分数とはいえ5人をそれぞれフューチャーする場面、ユニゾンする場面と構成すればもっと良かったかと。再挑戦楽しみにしています。

<バイレ・ソロ部門>
なかのZERO大ホールの舞台に1人で立つ!この事だけで“凄い”。普段はもっと狭いステージで踊ることが多いと思うので、あの広さは圧倒的!客席からは距離があるので、立ち姿、体幹の有り無し、空間使い、バタの扱い等々良く見えます。
“64名の挑戦者に惜しみない拍手を送ります。オーレ”

★私が奨励賞に推薦した方達(敬称略)
・出水宏輝:溌剌としていながら、とても丁寧な踊り。ブラソの動きも良く、サパテアードもムイリンピオ。
・平田かつら:存在感がありダイナミックな踊り。カンテへのコンテスタションが素晴らしい。
・伊部康子:大変に抑揚の効いた踊り。特に唄振りが良かった。何という上達、変貌ぶり。
・内田好美:振りを自分のものとしていて、豊かな上体の表現、すばらしかった。
・津幡友紀:独特のアイレがあり、メリハリがありペジスコの効いた踊り。
・池田理恵:シンプルな振りながらも、メリハリがあり充分に自分らしさを表現していた。

☆次点で推薦した方
・大神明希:よくコントロールされた踊り。リズムの変化のつけ方が上手い。

☆今回の新人公演で成長、上達が見られ、来年に大いに期待したい人達
【24日】
・谷口祐子:バタ・デ・コーラ+マントンを上手く扱い、エレガントな踊り。私感ですが、バタが軽すぎ(!?)で落ちてくる時の美しさに欠けた。
・川田久美子:大人の踊りで素敵だったが、こちらに伝わって来るものが足りなかった。
・二村広美:今回は彼女の持つ世界が上手くまとめられた踊りだったが、Falta algo、自分の中で何を表現したいか明確に。(テニクニックという事でなく)
・大津絵里香:魅力的なサリーダ。もっと溜めを意識して。
・近藤朔:前回よりも確実に上達。シンプルな振りだが彼そのものの踊り。始めからファルダ付でも良かったのでは、または一考の余地あり。
・佐野裕子:彼女のフラメンコが静かに燃える炎の様に伝わってきた。メリハリ不足だが練習の成果が見てとれた。

【25日】
・小宮山葉子:落ち着いた踊り、タンゴに入ると活き活き。ただエスコビージャになると体幹がゆるみ首が落ちるのが気になった。
・岡田知子:Pesoがあり上手いが、時折腰の浮きが気になった。もっとあなたの思いのたけを伝えて欲しい!
・森永泉美:エレガンシアである。ゆっくりなエスコビージャで自分を活かした振付。最後の入りまでを大切に。
・沖山美環:長身ながらそれを上手く活かして、自分の踊りとしてきた。前回よりも数段の成長ぶり。
・鈴木雪花:しっとりと落ち着いたマルカーヘ。体幹もしっかりして好感の持てる踊り。もっと踊り込んであなた色を伝えて欲しい。
・富沢良子:サリーダで目を引いた。メリハリもありコントロールされた踊りだが、ソレアのアイレのほとばしりを出して欲しかった。次回期待しています。
・松下ひろみ:大人のフラメンカな踊り、サパテアードもリンピオだがこちらに伝わってこない。惜しい!
・齋藤朋之:立ち姿も良くなった。サパテアードも安定してきた。体型を考えて、衣裳選びに再考を!増々の精進を。

☆2日間を拝見し、感じた事
①踊るための身体訓練をした方が良いと思われる方達が多数。エスコビージャの時に状態が崩れ、首の斜傾(スマホ首?)が気になった。サパテアードは1人で練習しやすいが、まずは踊り手の身体に!
②衣裳について、特にエスコビージャの時のファルダの扱いが雑。必要以上に持ち上げず、ブラソ、体を一体化して動かしてみてはどうでしょう。
③時間内に収めようとする故か。終わりの入り方が雑になった方達を多く見かけた。踊りは「出」から「入り」まで気を抜かずに。最後に普段の「素」に戻ってしまわない様に。

市川惠子(舞踊家)[Bs,Bg]]

今年も再挑戦の方たちの成長は見覚ましく感動しましたが、普段の力を出し切れない方も。本当にフラメンコは生ものですから難しい。
ある程度上手な方が多く、それぞれに良さがあるものの何か物足りなさもあり、そういう意味では突出した方が少なく、選出するのには本当に苦労しました。最終的には技術面ではなく、より心に響いた方を推薦しました。

<バイレ・ソロ部門>
私が奨励賞に推薦した方々は
★内田好美:私にとってダントツトップ。ドラマチックだがフラメンカ。こう完成させてきたか!と胸が詰まる思い。芯のあるブレない身体、締まりのあるコンパス感、ピエ、テクニックも素晴らしい。情感に溢れしなやかで品もある、テンションも高く、全身を駆使した情熱的な踊りに感動。一時も緩まない空気感に思わず魅入ってしまった。
★有田ゆうき:動かない唄ぶりで十分納得できる見応えのあるソレア。全体的に振付も構成も良い。レマーテは強く、緩急があり、コンパスの締めもある、自分の強い意志を感じる。含み、重み、気迫、アイレ、存在感もある、フラメンコ性の高い素晴らしい踊り。
★池田理恵:身体能力に優れ、よくフラメンコを知っていて自由自在。足も凄い。細やかな足を綺麗に事も無げに打つ。ノリも良く個性的で味があり、フラメンコとしての強さ、アイレもある。もっとシンプルな振りでも充分見せられると思うが、あなたならではの粋なフラメンコ。流石です。
★川恵子:上手い。スカッと良い始まりで最後まで空気感が良い。緩急があり、のびやかで何か新鮮、さりげなく歯切れ良い踊り。舞台の切り方が上手く、ピエもリンピオ、強さもコンパス感もある。安定感はあるのだが、もう少し含み、重みがあるとなお良い。大人の魅力を感じ印象に残った。
★平川亜紀:テンションは高く、静かに込めて溜める力がありとても良い、フラメンカ。コンパス感、テンポ感もあって全体の流れが良い。ブレの無い締まった身体で、切れ味の良いピエ、レマーテも強い。粋さもあり、抜けも良く、上手い。思わず見てしまう、重みが出ると尚良いのでは。
★平和美:追い求めるフラメンコがはっきり見え、静かだが内に秘めた熱い思いが伝わってきた。気迫も力強さもあり、ぐっと深く込める力、含み、ねじり、絞りも出てきた。ただ肩が上がる癖があるので気を付けて。重みのある印象深い良いソレアでした。
次点として推薦したのは(予備票)
★出水宏輝:アレグリアスらしく、男性の踊りとして全体的に素晴らしい。色々と構成を考え過ぎて良いところが薄れて勢いがなくなってしまったのでは。以前大阪の舞台で活気に満ちた素晴らしい踊りを見ていたので、今回は少し元気がないように感じた。もっと素直な振りの方が活きると思う。

特に印象に残った方々は
☆津幡友紀:締まりのある身体で込める力がある好きな踊り。唄は重みがありレマーテは強くピリッとした空気間。思わず見入ってしまう。身体で見せる力があるので、ブラソ、マノでもっとしなやかな所も見せて欲しい。
☆山本由紀:素晴らしいカスタネットの綺麗な音色。身体の線もバタのさばきも美しく、ブラソも良い。力強い踊りへの成長に感動。形を感じる大げさな表現もまだ多いが、ここぞというところの気迫には胸を突かれた。
☆脇川愛:ブレの無い締まった身体。上体の使い方もよく、鋭さもありピエも締まった綺麗な音。コンパスの締めも良く、安定感があり、上手いのだが少し地味に感じるので、何かぐっと訴えかけるものがもっと欲しい。
☆伊部康子:すきっとしたまとまりの良い振りを大切に踊っている。身体の芯もでき、落ち着いた雰囲気で心地よい。表情も良く強さもあるのだが、どこか心に染みるもの、重み、深み、強烈に訴えかけるものがいる。
☆二村広美:激しさと気合がすごく、熱い気持ちは伝わってきた。マノも綺麗で足もしっかりしている。後半良いが、セギードはもっと頑張って。白いサパトスが効果的で印象に残った。
☆谷口祐子:始まりが美しく印象的。バタもマントンも美しい。晴れやかで可愛らしいが姿勢が気になる。もっと胸を上げて。シレンシオも素晴らしい振りだがもっと感情表現を。全体的にはまとまりが良く好感が持てた。
だが、フラメンコとしての力強さがもっと欲しい。
☆富沢良子:パワフルでプーロな踊り。まとまりの良い振りで、じわじわと盛り上がっていって良かった。切れ味もあり身体もしっかり、ねじりもあって良いのだが、もっとどーんとした深み、重み、決め手が欲しい。
☆松下ひろみ:構成の流れが良く見てしまう。唄も感じて踊っていて、ピエも小気味よく、コンパスの締め、止まりの強さも出ている。後半につれてバテたのか印象が薄く、タンゴのノリがあまり感じられなかった。
☆竹村歩:テンションも高く、気迫に満ちたフラメンコ性のある踊り。コンパス感も良くアセントもある。ピエも歯切れあり心地良い。思いのたけをぶつけてくる踊りにole!トップバッターだったが最後まで印象に残った。
☆多田つむぎ:小粒でピリリ、テンションも高いフラメンカ。どこまでもよく動く強靭な足と身体で感心するが、息つく暇がない。どこか静かなところや動かないところがあると、その気迫が活きるのでは。

次に印象に残った方々は
◎中山みのり:ブレない身体で足もしっかりしている。フラメンコ性も感じる踊りで良いのだが、あれこれとしすぎてかえって印象が薄れる。構成をもっとすっきりさせたほうが活きる。
◎岩丸綾子:強靭な足にブレない身体。強さも切れもある踊り。足を打つ時の身体は良いのだから唄ぶりにも深み、憂いをもう少し身体を使って出すと良い。タンゴは自分がもっと楽しんで踊って欲しかった。
◎菊原まり:ノリの良い晴れやで活気のある踊り。ブエルタも良い。色々踊っているが、どこかしんみりとしたところが欲しい。二つ目の唄はもっと感じて。レマーテはもっと頑張って。
◎平田かつら:重みがあり、気迫は伝わる。静かな心に染みるシギリージャで良いのだが、身体のブレ、マノの緩さが少し気になる。どこかもっと突出したところが欲しい。
◎大神明希:まとまりの良い王道な構成、振付を素直に踊り良かった。表情も良く感情も伝わってきたが、ブエルタ、ブラソはもう一工夫。唄の締めは大切。真っ直ぐな足が印象的。自然体で好感が持てた。今後が楽しみ。
◎鈴木雪花:身体が締まって込める力も出てきた。はっきりとした振り構成で、テンション高く、気迫もある。気持ちも伝わってきたが、もう少し上半身に奥行き、うねり、含み、しっとり感も欲しい。
◎畑中美里:さりげない踊りだが面白い。独特の個性を持っている。足を軽々と力まずに打って見せているが、上半身の力が足りない。決めのテンションは凄いものがある。抜けも粋。本当に不思議な魅力。
◎諸藤ふみ:どんどん良くなっていっていたのだが、今回はいつもより弱く感じ、衣裳で少し損したかも。迫力はあるが、もっとほとばしるものが欲しい。後半は良かったがテンションだけでなく真のある体幹作りを。
◎林由美子:良くフラメンコを知っている。ソレアらしい込める力、溜める力、訴えかけてくる熱さもあるのだがこちらに伝えきれなかった感。大舞台での舞台の切り方を考えて。
◎佐野裕子:女性としての情感があり品のある静かな踊り。自然な流れの振付、美しい身体の線で、静かな中に溜め、含み、重みがある。思いは伝わるが、どこかに惹きつけさせるどーんとした打ち出しがいる。
◎細川由香:個性を感じる。素敵な始まり。起承転結がはっきりしていてピエも良い。気合はあるがジャマーダ、マチョはもっと強く。程よい振りで気持ちよく見れたが、全体にもっと強さがあると良い。
◎杉浦桃子:全体的にバランスの良い構成と振付。ただ無理に大きく動きすぎでは?コンパスの締めも良くマルカールも良い。まだまだだが良いものを持っていて、新人らしく好感が持てた。
◎伊藤美恵:まとまりのある構成で、さりげなく良い。マノ、ブラソ、ピエも良いのだが、どこかもっと強烈に訴えかけるものが欲しい。最初の足、振りのパルマはもっと強く。
◎橋本佳津枝:スパっとした踊り。静と動を上手く表現した振付をのびやかな身体のラインで魅せた。踊りに強さが出てきて込めた力はあるが、硬く、何か物足りない。もっと踊り込んで自分のものにして欲しい。
◎大井昌子:大振りでのびやか、ノリは良いが少し慌ただしく見えるので、
コンパスの締めを大切に。何回もするよりも一つのジャマーダに渾身の力を込めて。恵まれた体格なので、もっと身体を締めて、足もしっかり。
◎中里眞央:印象的な始まり。身体は動くし激しさも感じるが、舞台を駆けずりまわり過ぎ。驚かすような振りが多いのがマイナスに。身体能力のある締まった身体なのだから、もっと自然体のところがあると良いのでは。
◎沖山美環:テンション高く、凄い体力だと感心するが、唄が動き過ぎて足で踊っている印象。これでもか!という気合は感じるが、慌ただしく見えて損。もっと動かない静けさも大切に。
◎近藤朔:この人の踊りにはいつも何か感じるものがある。誠実さが見え、大切にしているものが伝わってきて胸が詰まる思い。年々足もしっかりしてきて、フラメンコ性が増してきていて、観るのが楽しみ。

今後に期待したい方々は、
●青木千鶴子:長年見させていただいているが、身体が整ってそれなりの佇まい、空気感、癖も取れて、美しい踊りになってきた。マノ、ブラソも良い。なぜか冷たさを感じたが、挑戦し続けることの大切さを感じた。
●本多清見:小柄だが凛とした佇まいでブレない身体。頑張りは感じるののだが、唄をもっと感じてブラソの締めを大切に。アセントをしっかりとって。どこかぐっとくるところが欲しい。
●齋藤朋之:この新人公演に向かってこれだけのものを考えたとしたら素晴らしい。だが踊りこなせていたのかどうか。でも見てしまう。うまくなっていると思うが、バックの応援が素晴らしく、つい目がいってしまう。
●伊藤明美:小柄だが重みがある。身体も整っていて表情も良く、全体的に小奇麗にまとまっているが、どこかにインパクトに欠ける。ジャマーダなしで突然唄に入るのは余程考えなければ難しい。
●川田久美子:溜めもあり、抜けも良く、前半は勢いが感じられた。女性らしいしなやかさはあるが、背中はもっと使って。ブラソも上手く良いのだが、何かが物足りない。もっと後半にかけての盛り上がりが要る。
●灘辺佳代子:サリーダが変わった振り。最後までよく動き足も打っているが、唄が弱い。表情も作っていて、打ち出しも強いが、まだ踊りが粗い。アレグリアスの楽しさが伝えられるよう、自分から発する何かが欲しい。
●川口真理子:スキっとした始まり。ちゃんとした踊りだが変化に乏しい。マルカールが流れ気味。身体の重み、足の音の重みも欲しい。気持ちを伝えるために、もっと印象づけるような何かが要る。
●大津絵里香:モダンな振付で綺麗だが、全体的に少し慌ただしく感じた。ブラソが直線的で、重みが無いので、まだ形で踊っているように見える。その曲らしさ、振付の意味をよく考えて踊り込んでいくことが大切。
●小山理絵:取り留めないがしんみりとした良さがある。きっと振りを一生懸命踊っているのだが調子が変わらないのでどこか印象づけるところを。唄はもっと感じて、セギードはもっと頑張って。
●鈴木旗江:振りの始まりはフラメンコ的で好き。印象的。気合も感じられるが、ジャマーダ、アセントが弱い。ブエルタももっと軸をとって。衣裳もシンプルな方が活きるのでは?エスコビージャの入口が乱れて残念。
●永田初恵:切れも良くテンションもあるが、まだ弱い。闘牛のイメージで色々しているが分かりずらい。頑張っているのに盛り上がりに欠けた。もっとしっとりした方が良いのでは。
●岡田知子:足がしっかりしているのに上半身が弱く感じた。しっとりと込める力が要る。ファルセータへの切り替え等もっとしんみりと。首、ファルダを持つ肘を気に付けて。マルカールも流れ気味なので、もっと体型を活かした重みのある踊りを期待したい。
●森永泉美:モダンな良い振付を丁寧に踊っているが、まだこなれていない。ピエも綺麗で成長は感じるが、込める力、コンパスの締めに注意。上半身が硬く感じるので、奥行きのある身体使いとブラソ、マノを大切に。

今後の課題を頑張って欲しい方々は、
〇月城宏美:気合で頑張っているがまだこれからというところ。ブラソ、マノ、マルカール、肘を注意。コンパスの締めを感じて、身体に奥行きがないので、背中をいつも意識して。
〇伊藤真由美:少し泥臭いファルーカだが、この人の味?私の思っているファルーカとイメージが違うが、でも見てしまう。少し流れ気味だが、何かこの人のこだわりを感じた。手の扱いは気を付けて。止まりはきっちり。
〇持田賀津子:身体のラインが美しく、年々成長している。だがフラメンコとしての力が足りない。ポーズからポーズの間が踊りということを忘れないで。足を打つ時、腰が引けて見えるので気を付けて。
〇石黒裕子:頑張ってそこそこ踊っているのだが、中途半端に見えてしまう。振りも色々しているが調子が一緒。ブラソ、マノが甘い。身体を締めて。一曲の中でもっと変化をつけてみては。
〇橋田佳奈:足はしっかりしているがコンパスは掴んでジャマーダは強く。ハッキリとした振りだが、少し一本調子に見える。全体に慌ただしく感じるので、しっとり感、情緒性が欲しい。上半身、マノ、ブラを大切に。
〇河合浩子:激しさは感じられるが、唄はもっと心に染みるものが欲しい。奇をてらう振りが多いのでどこか静けさがいる。足に比べて上半身、マノ、ブラソが甘いのでもっと使って。
〇小林由佳:全体としては面白く、ちゃんと踊っているのだが、表情が大げさで作りすぎでは。踊り込んで自分のものにして欲しい。
〇小宮山葉子:気合も感じられるが、インパクト、切れ味に欠ける。唄の重み、タンゴのノリについて考えて。もっとぐっと来るものがいる。
〇稲沢静:足はしっかりしているが軸がぶれるので注意。マルカールが流れ気味。背中を意識して。調子がずっと一緒に見えるので自分の打ち出しを考えて。リブレで見せるにはそれなりの経験を積む必要がある。
〇黒川あかね:色々頑張っているが首が突き出ていて姿勢が悪いので注意。足は動いているが強さが足りない。身体をもっと締めて基礎を大切に。
□湯田小百合:個性的な振りだがマントンはもっと身体のラインを美しく出して。肘に注意。身体づくりを頑張ってソレアらしさについて考えて。
□小川千尋:シギリージャとしてはまだ弱い。身体がブレすぎ、足だけで踊らず上半身をもっと使って、背伸びしないで基礎から大切に学んで。
□高尾優子:拙さはあるが、好感を持てる。しなやかだが、優雅さと力強さが足りない。ブラソとマノも大切に、もっとしっかりした身体作りを。
□小野栄子:グアヒーラが新鮮で良いが、まだ振りが自分のものになっていないので必死に踊っているように見える。ブラソ、身体の軸を大切に。
□中村文歌:足は頑張っているが、マルカールが流れ気味。後半は良かったが、コンパスの取り方が甘い。基礎力をつけて。
□加藤美佳:一生懸命さは伝わるが、まだタラントを踊る身体づくりができていない。唄をもっとよく感じて、まずはタンゴから勉強して欲しい。

<バイレ・群舞部門>
それぞれ一丸となって取り組んでこられた気持ちが伝わってきて、とても迷ったが奨励賞に推薦したのは
★Las Ramitas:モダンな始まりだが全体にフラメンコとしての力を感じる。赤のバラを上目につけた体幹のしっかりした方がとてもフラメンコらしくて目を惹きつけた。コンパスの締め、アセントがはっきりしていてフラメンコらしい。エスコビージャが少し慌ただしかったが起承転結がはっきりしていて気持ち良く見られた。まだ拙い人もいたが気持ちが一つとなってどーんと届くものがあり印象に残った。

私としての次点は
☆スタジオ“hermanas”:一人ずつ動き始める振付は本当に素晴らしいが難しい。それぞれの力量が求められる。ラストも難しく全体に凝った振りなので踊りこなすのが大変。中央の方々で頑張っていたが・・・。静かで上品な構成だがじわじわと盛り上がって良かった。ただ少し地味に感じるので強烈に迫るものが欲しい。
☆ESTUDIO KEIKO Las TOMATE:体格の良い中央の方がうまく全体を引き締め引っ張っていた。白黒の水玉やシマ、赤の刺繍に赤の裏、赤のマントンと視覚的にとても派手で効果的。振り、構成でうまく見せている。活気もあるが、それぞれのフラメンコの力量としては今後に期待したい。でも華やかで素敵でした。
〇スタジオÁnimo:真剣に取り組んできた気持ちは伝わるが、唄のアセントのとらえ方が弱い。まだ身体が使いこなせていないので、上体、マノをしっかり使って。真摯な思いは伝わった。

現在では多種多様なフラメンコがある中それぞれに趣向の違いがあっても思いは一つだと信じています。もちろんテクニックは大切ですが心に届かなければフラメンコの魅力、感動は伝えられないのではないでしょうか?テンションの高さも大事ですがそれは静けさもあってこそ活きるもの。フラメンコならではの独特な表現、情感が感じられるようなブラソ、マノを使った女性ならではの優雅な踊りをする人が少なく感じ残念です。それぞれが自分のレベルに応じて努力され、力量に見合う振付、曲を選ぶことも大切。振が少し詰め込み過ぎで慌ただしく感じたり、凝りすぎていて踊りこなせていない方もいらっしゃいました。その曲らしさも大切に。自分が活きるにはどうしたら良いのか考えることも重要。フラメンコとしての身体が出来上がってない方はまずは芯のある身体作り、基本を大切に学びいつもフラメンコを心と身体で感じながら踊れるようになって頂きたいのです。皆さんがそれぞれの個性、自分の感情を大切に自分の良い所は伸ばし弱い所を努力なさって更に素敵な踊りを見せてくださることを願っています。

EL・POKA岡崎(舞踊家)[Bs,Bg]

<バイレ・群舞部門>
群舞の部を観させて頂き、スタジオ“hermanas”は唄と音が合っていたし、リーダーがしっかりまとめていたし、踊りとバックが一体化していて大変気持ち良く鑑賞する事が出来た。石川さんの作品も、衣裳も似ていて、それぞれ個性もあるし、楽しかった。群舞だから出来るアレグリアス!を魅せて頂けたので+αで群3の作品にしました。

<バイレ・ソロ部門>
出水宏輝さん、もの凄く踊り込んでいるのがわかるし、切れもあり、文句無しです。山本由紀さん、強弱が見事だし、細かい所の計算が出来ていて、素晴らしかった。有田ゆうきさん、落ち着いているし、重みもある、すごいソレアになっていました。内田好美さん、表現力抜群!リズム感抜群、動きも機敏、力強い!私の中で本年度最高得点です。津幡友紀さん、力強さを持っていて、無理な動きはせず、最後まで力強さをアピール、上手に踊っていました。感心、歓心!脇川愛さん、もの凄いリズム感を持ち合わせている人!上手以外、いう事無し。細川由香さん、文句無しで上手な人、この先どこまで成長するのか、びっくり楽しみです。

東仲一矩(舞踊家)[C]

出場された皆さん、お疲れ様でした。年々レベルアップしていると感じました。
奨励賞の山本淳子さん、音程、節回し、いずれも自分のものとした素晴らしい表現だったと思います。
準奨励賞の中里眞央さん、非常に好感の持てる唄でした。音程もしっかりしていました。
斎藤克己さん、珍しい曲に挑戦されました。自分の世界観を持っていると思います。
遠藤郷子さん、音程も良く、今後がとても楽しみです。
惜しくも賞を逃しましたが、印象に残っている方。
小林カルメンさん、中山えみ子さん、深谷恵子さん。今後の成長に期待しています。

ロシオ・ロメロ(舞踊家)[C]

今年は何人かの参加者にレベルアップが見られ、またより良くなろうと努力する姿がありました。それは感謝に値することです。
すべての参加者の方に、どうか学びつづけてくださいとエールを送りたいと思いますが、がんばっていただきたいこともたくさんあります。発音、音程、それぞれのパロにふさわしい表現を知ること……そのすべてに時間と忍耐と献身が必要です。そして何より、目標は賞を取ることではなく学ぶことです。受賞があなたをプロフェッショナルにしてくれるわけではないのですから。
そしておめでとう、山本淳子さん。彼女は私を感動させてくれました。
オツカレサマデシタ、また来年まで!

ディエゴ・ゴメス(カンタオール)[C]

また今年もフラメンコ・ルネサンスが終わりました。ハードな1ヵ月でしたが、まず協会に、そしてアーティストたち、参加者たち、それからスタッフほかの皆さんに感謝を捧げたく思います。
カンテ部門について言えば、年々、より多くの人が参加したいと願ってくれるのを目の当たりにするのはたいへん幸せだし満足です。毎年レベルは少しずつ上がっており、フラメンコ芸術に障壁は存在しないと思わせてくれます。
私からすべての参加者にアドバイスしたいのは、言語を学ぶことにも関心を寄せてほしい、ということです。心を込めて歌うには、自分が歌っているものの意味を理解することが非常に大切だからです。テクニックもとても大事です。ですが、心の、魂の奥底から歌えば、それは本当に人に伝わるものになるのです。
来年はさらにレベルが上がりつづけることを期待し、願っています。皆さまオツカレサマデシタ!!

菊地裕子(評論ライター)[Bs,Bg]

フラメンコは元気の素だと思っている。いや、「佳きフラメンコは」と言い直そう。例年の新人公演では、楽しみながらも疲れが勝ることのほうが多いのだが、なぜか今年の新人公演からは例年よりも沢山の元気をいただいた。おそらく「佳きフラメンコ」を志すステージが多かったせいではなかろうか。
コンクールではないとは言え、奨励賞の存在があるために、それを目標としている出場者は少なくない。逆に、この大舞台に立つこと自体を目標に自分の新たな挑戦を繰り返す人もいる。また、自身の思い出にということで出る人もいるだろう。だが、どんな理由であれ、「佳きフラメンコ」を志していることを感じさせてくれるなら、私はオレ!だと思う。そして、いつか「佳きフラメンコ」そのものを感じさせてほしいと願う。それはもちろん新人公演のステージに留まらずにだ。
ただ今年、バイレソロで一番気になったことをひとつ。パソにやりたいことや見せたいことを詰め込みすぎるあまり、曲種のイメージを殺していると思われる演目が散見されたこと。新人公演の場合、多くはバックのほうが踊り手よりも曲種を理解している。踊り手はカンテやギターを良く聴いて踊ることを忘れないでほしいと思う。何故バイレのステージはバックが生なのか、録音ではないのか、よくよく考えて踊ってください。
奨励賞を受賞した方は、来年から新人公演には出場できないという決まりがある。それはつまり、奨励賞受賞者以外は、準奨励賞受賞者も含め、来年以降もまた挑戦できるということでもある。そういう意味ではバイレ、カンテ、ギター含めて、来年以降の新人公演にも私は大いに期待を持っている。最後に、真夏の3日間、渾身のステージで沢山の感動と勇気を与えてくれた全ての出演者に、(大声で)ありがとーーーーーっ!!

以下は、いつものように印象に残った出場者のメモから。
(◎=高評価、○=評価、△=今後に期待/★=奨励賞に推薦、☆=次点)

<バイレ・群舞部門>
【23日】
◎スタジオ“hermanas”☆/バストンを持つまでも持ってからも、厳しい緊張感が失われることなく、6人の技量の高さが伺え、フォーメーションも見事だった。ただ、正攻法だっただけに、わずかな技術のバラつきに目がいくことも多少あり、ユニゾン以外の個々の踊りにもう少し遊び心のある場面を多用しても良かったのではないかと思った。そのためギリギリまで悩んだ末、奨励賞該当なしの次点で推したが、受賞されたことについてはもちろん異論はない。おめでとう!
△スタジオ Ánimo/3人とも、まだフォーメーションの移動もたどたどしく、覚えたことを一生懸命にこなしている段階に見えた。だが、真摯に踊っているのは好印象。今後、振付やフォーメーションを体に入れることはもちろん、体全体で表現することも忘れずに頑張ってほしい。
○ESTUDIO KEIKO Las TOMATE/6人がバタ・デ・コーラとマントンを使い、広い舞台を華やかに彩った。バタとマントンを使える体を作るのはソロでも大変だが、これだけの人数が上手に使えたことには驚きを禁じ得なかった。ただ舞踊的には技量のバラつきが見え隠れし、もう一歩のイメージに。惜しい〜。華やかさは天下一品なので、ぜひぜひさらなるレベルアップに挑戦してほしい!
○Las Ramitas/力強さのある、メリハリのきいたフラメンカな群舞。フラメンコとはコレだ!という共通の確信があると感じさせ、まるで1人ひとりがそのための細胞でもあるかのようにその方向性にブレがない。つまり同じ価値観の人同志が、共通する大好きなフラメンコを踊っている感じ。個々のフラメンコ度や舞踊技術やお互いの共振度は高い。しかし!もう1つ深みというか、群舞としての思想というか、タラントという曲で何を訴えたかったのかが、ピンと来なかった。群舞というジャンルの難しさを感じた。

<バイレ・ソロ部門>
【24日】
○竹村歩/ソレア・ポル・ブレリア。力強く、エネルギーが空回りしない充実した踊り。なかなかのフラメンカだが、ラストまでの持続が課題。床を叩いてのハケがやり過ぎに見えたのは、その手前で中身が空っぽに近くなったからだと思われる。体力と集中力!
○出水宏樹/アレグリアスらしい軽妙さと面白みがあり、終始、ニヤニヤしながら見ていた。佳い踊り手だ。もっともっと他の曲種も見てみたいし、もっと違う表現も見てみたいと思わせてくれた。奨励賞を取っちゃって、あたしゃ正直、凄く残念。うー。
△伊藤明美/ソレア。オーソドックスな振付をしっかり良く踊っている。だが、全体に踊りが小さくまとまっていて、個性が見えない。フラメンコはここからです。頑張れ!
○谷口祐子/アレグリアス。去年と同じく、バタ・デ・コーラとマントンでの挑戦。マントンさばきは美しく優美でキレもあり、バタの使い方もこなれてきた。けれども衣装が薄手で軽いせいか、足が根元まで見えすぎて興ざめしてしまう。バタというより、ファルダの使い方が乱暴。良い踊り手なのに、わざとなのかなあ。だとすれば、もっと違うやり方があるのでは。
○灘辺佳代子/アレグリアス。去年のグアヒーラとは打って変わって、凝った展開の振付で、緩急の組み合わせに面白みがあった。だが、その効果が楽しさとして今ひとつ伝わらず、残念。大きな舞台での呼吸の仕方と体の保ち方を意識して、密度と深さと大きさを研究して。欲張りだけど(汗)。
○川田久美子/アレグリアス。表現力のある体で舞踊度は高し。去年からよく精進してきたけど、これといった決め手に欠け、アレグリアスの面白みが薄い。他の曲種のほうが似合うかも。タラントとかソレアとかを中身をぐっと充実させて踊ってみては。
○山本由紀/ペテネーラ。舞踊技術が高く、精巧な、ひとつのダンス作品として面白く見た。けれども、人間らしい感情がなかなか伝わってこない。それをスタイルとする方法もあるとは思うが、今のままでは、私にはフラメンコの感興は湧かないというのが正直なところ。全部でなくても良い、どこか一点突破する部分があれば、印象は随分変わるはず。
△平田かつら/シギリージャ。去年もだったが、よく踊れている印象。だがコレ!といった強みがまだ足りなくて、中盤に中だるみしてしまう。この曲種の厳しさ、強さ、難しさは本人が一番良く解っていると思う。そこを敢えて再度挑戦してきた意気は買います。もっともっと強くなって!
△中山みのり/シギリージャ。講評に書いた「気になった」踊りのひとつ。メモに「ソレポルみたいなノリ」「唄との違和感」とある。この曲を踊るのに、そんなにパソを詰め込む必要が? レマーテのブラソも0.1秒遅れている感じ。もう少しクエルポを鍛えて表現力を豊かにすれば、緩急もついて曲に深みが出るのではないかと。
△杉浦桃子/ソレア。まずまず上手いが、全体に踊りがか細く、形を作るところで止まっていて、中身の熱量が伝わらない。本人がスレンダーでも、踊る時はどっしりした重い体を動かす感じ、あるいは踊り難きを踊るイメージをぜひ。
○二村広美/シギリージャ。メリハリがきいていて、よく踊り込んでいる印象。数年前に比べると、存在感も迫力もかなりレベルアップ。さすが。だが、中盤でやや息切れの感。惜しい! 体力をもっと! あと、あの踊りがあれば、そこまでの表情は必要ないかと。
△伊藤美恵/アレグリアス。中身が充実していて、とても良い踊り手の印象。だが、もう少し動きに厳しさが欲しい。動く時は動く、動かない時は動かない! 中途半端はNGです。そして大きな動きはもっと体の中心から大きく花開くこと。
○鈴木旗江/ソレア。良い踊り手には違いない。期待していたのだが、ユニセックスな振付を踊る姿が、まるで苦行のようにも見え、正直、少し辛かった。「その振付の中にあなたは居るの?」とメモにある。何かを追求することは価値あることだが、フラメンコにおいては共有することも大いに価値があるはず。開かれたあなたを私は見たい。
○諸藤ふみ/ソレア。何て気持ち良さ気に踊るんだ!フラメンコが好きだというのが実に良く伝わる。今年は、よく中を探っていた。ただ、去年と比べると、やりたいことがビシッと伝わりにくかった部分も。中の感情をもっとよくコントロールしながら、曲の起承転結の輪郭をメリハリつけて踊ってください。
◎菊原まり★/アレグリアスらしさが全開!この振付が大好きだという感じで、踊り全般に余裕を感じる。見せ方も良く解っていて、それが嫌みにならないのが○。終始、楽しい気分で見させてもらいました。
○大神明希/ソレア。緊張感、中身の充実度、舞踊度、フラメンコ度、全てにおいて非常にバランスが良く、抑制もきいていて魅力的な踊り。何かあっけらかんと踊っていた人が凄い成長ぶりだ。しかし問題はこれから。突出した個性、あなただけの何かを見せて。
◎伊部康子★/ソレア。何ともシンプルで飾り気がなくて、それでもこんなにも曲のセンティードをひしひしと伝えてくれる演目に遭えるとは! “引き算のフラメンコ”に感動させられたことは、今年の新人公演の大きな収穫のひとつ。わずかな動きにもコンパスが息づいているって、こんなにも気持ちいいのだ。来年、またあなたの踊りが見られるって、本当に心から嬉しい。お帰りなさい!
○有田ゆうき/ソレア。芯のある踊り。去年に比べ、表現としての成長が見える。ただ、強さを伺わせる振付にまだ若干の無理が見え、ぐっと見入るに至らない。強さは必要な要素だとしても、あなたらしい振付には、もっと他の要素が大事になってくる気がします。
◎内田好美★/シギリージャ。フラメンコ度も舞踊度も、曲のセンティードの表現も、バイレに欠かせないと言われるものの何もかもが、密度濃く詰まっていて、震えるほど感動した。わたくし的には今年のバイレソロの白眉。オレ!!
△伊藤真由美/ファルーカ。それなりの技術を持った踊り手だとは思うものの、衣装の奇抜さが曲や振付と不協和音を奏でており、そのせいか踊りが小さく見え、演目に入り込めなかった。踊りが悪くなかっただけに、これは損かと。
△河合浩子/シギリージャ。よく踊っているのに、全体に踊りが小さい印象。振付をちゃんと踊ることは、もちろん大事。でも、どのパソも、体の中心から吹き出ようとするマグマを抑えつつ踊ってほしい。そのために必要なことを1つずつクリアしてください。

【25日】
△高尾優子/アレグリアス。バタ・デ・コーラとマントンで挑むのは、踊りの体ができていないと難しいが、まずまず体の使い方は悪くない。ただ、バタの扱いがまだたどたどしく、全体にリズムに乗り切れていないため、曲の良さが伝わらない。もっと自分のものにしてください。
△岡田知子/シギリージャ。そこそこ踊れてはいるが、踊りが予定調和になっていて、振付の順番を追っている印象になっており、曲の楽しさが今ひとつ伝わらない。シギリージャ、好きですか?唄をよく聴いて、そこから感じて踊るということを、じっくり勉強してください。
◎津幡友紀★/シギリージャ。やっと花開いた!という感じ。レベルの高い踊りで、バックとの強調も心地よかった。メリハリのきいた展開で、自分の世界観を見事に踊りきった。オレ!
○川口真理子/シギリージャ。サリーダから中盤までは非常に良かった。のに、2唄辺りで中だるみした感じ。体力の問題か、踊り込みが足りなかったか、振付が浸透していなかったか。あと、フラメンコとしては体の使い方が開放的過ぎる印象。カンテが唄い難きを唄っているのだから、踊り手は踊り難きを踊ってください。
◎平和美☆/ソレア。曲のイメージをよく捉え、抑制のきいたメリハリのある踊り。ヒターナ風の踊り方にありがちなわざとらしさがなく、自分のものとして踊っている感じがとても良かった!あとは中を、もっと丁寧に膨らませていくことです。
○橋本佳津枝/シギリージャ。曲全体を通して、気の流れが美しく、バックとの共振が素晴らしかった。非常に良かったが、惜しむらくはラストにかけての盛り上がりが今ひとつだったこと。体力つけて、もっともっと大きくなって!
△岩丸綾子/タラント。上手いけれど、全体に踊りから受ける印象が小さい。大きな舞台で踊ることを意識して、何となく動いている箇所の輪郭をもっと明確にすること。ただし、形だけではなく、自分の中をもっともっと熱くして、吹き出すものをぐっと抑えながら、大きく踊ってください。
○沖山美環/ソレア。バックとの調和がよく、曲のイメージがとても良く伝わってきた。特にエスコビージャのセンティードは○。やっていることは間違いないのだ。あと足りないのは自信かな。踊っている間、自分が自分を支配する主人であり、ステージのメインであり、踊っている自分、唄に感じている自分、ギターを聴いてウズウズしている自分を、下々が見たがっているのだという自信。先は長いぞ。頑張れ!
◎川恵子★/シギリージャ。抑制がきいていて、バックとの共振も素晴らしく、これぞフラメンコ!という感じ。存在感。ふっと、マヌエラ・カラスコのイメージがよぎった。うーん、素晴らしい!
○脇川愛/タラント。踊りの技術は高いが、曲のセンティードがうまく消化されていない感じ。上手いんだけど、方向が違うので、感動できない。曲への理解をもっと深めると、踊りはかなり変わるはず。上手いんだから。
◎池田理恵/ソレア。抑制がきいて、とても説得力のあるソレアだった。上手な踊り手だ。見入っていたのだけど、終盤の上着を脱ぐパフォーマンスは要らなかったかな。手垢のついた所作をやる時ほど自分の中に絶対の必然性がないと、見ているほうは醒めちゃいます。
△大井昌子/ロメーラ。昨年に続いて作り込んだ感じの振付で、技術の高さを伺わせる。けれども今年はやや踊り込みが足りなかったか。アバニコの扱いが少しぎこちなく、高度な振付にも体がやや追いついていかないような印象があった。惜しい!
○平川亜紀/ソレア・ポル・ブレリア。ペソのある踊りで、エネルギーの配分も上手い。非常によくコントロールできている印象。ただ逆に破綻がなさすぎて面白みに欠けた。フラメンコの美味しいところのひとつに、意外性というのがある。観客の期待を裏切る、あるいは期待を上回る、そういうところをちょっと工夫してほしい。
○鈴木雪花/ソレア。曲のイメージをよく捉えて踊っていて、センスの良さを感じる。良い踊り手なのは間違いないが、今のままでは描く線がまだ細く、ペソが足りない。踊りとは、あなたの思いを深く鋭く刻印すること。思いをもっともっと熟成させ、その重さを感じながら踊ってみてください。
△青木千鶴子/タラント。ここ数年、毎年のように挑戦してきて、順調に成長していたのに、今年は「あれ?」と思った。技術的にはレベルアップしているのだが、踊りが形骸化している感じで、全く心に響いてこない。冷たい。これでは何のための技術だかわからない。考え過ぎ、作り込み過ぎという印象。フラメンコはひとりで演じるものではなく、バックとのやり取りの中で触発され、触発し、観客も巻き込んでいくものではないかな。
△細川由香/シギリージャ。表現力のある踊り手だが、エスコビージャに物足りなさが。また、後半に行くに従い、エネルギーが落ちた印象。息が上がっちゃったかな。良いものはあるので、しっかり体力をつけ、舞台に慣れ、再度挑戦してください。
○永田初恵/タラント。技術と感情表現のバランスが良く、全体に曲のアイレが漂っていて、センスの良さが光った。エスコビージャも魅力的。あとは、全てをもう一回り大きくしてほしい。深く、大きく、あなたのタラントを彫るのです。
○松下ひろみ/タラント。非常に抑制がきいていて心地よい踊り。エスコビージャも良かった。のに、終盤で息切れしたのか、エネルギーがダウン。実はプロの踊り手でもままあることだが、大きな舞台に慣れていないとエネルギー配分に失敗しがち。稽古の時から大舞台をイメージして踊ることです。
△本多清見/ソレア。全体にバランスが良く、コントロールもきいて、ちゃんとフラメンコになっているものの、伝わるものが弱い。良い踊り手だと思うのに、歯がゆい限り。本当はあんまり言いたくないけど、「私を見て!」「私の苦しみを感じて!」って、ちょっとだけ思ってみて。
△齋藤朋之/マルティネーテ。くーっ!渋さはピカイチ。男のロマンを感じる。手数は多くなくていいから、得意なことだけをどんどんブラッシュアップしてほしい。そしてそれを引っさげて、毎年、出てください。お願い!
△多田つむぎ/アレグリアス。良く踊れているほうだと思うのだが、ほぼ同じぐらいのエネルギーで沢山動くので、メリハリに乏しく、見どころがわからない。というか、まず自分で何をどう見せたいか、はっきりしてますか?漫然と踊っては説得力は生まれません。
○小林由佳/アレグリアス。良い踊り手だし、上手いし、ちゃんと曲のアイレも表現できているし、評価は高いのだけど、始めのほうで、ちょっと表情を作り過ぎたかな。日本人は表情に乏しいと言われることが多いせいか、よく作った表情で踊る人がいるけれども、慣れていないのでやり過ぎる場合がままある。表情は、感情が湧いてくれば自ずと変化するもの。やり過ぎると観客は敏感にそれを感じて退いてしまいます。
◎畑中美里★/ソレア。凄く面白いセンスの踊り手。カンテを聴いて踊れと良く言われるが、この人の踊りは、踊り自体が唄のようだと感じたのだ。それが良いか悪いかは私にはわからないが、ともかく不思議な感覚で、こんな解釈もあるのかと、ずーっとワクワク感が止まらなかった。ありがとう!

瀬田 彰(ギタリスト)[G]

今回私が良い演奏と感じた上位4名は1番・2番・7番・9番です。内容は僅差の接戦でした。
(なお1番は演奏規定時間オーバーのため、奨励賞選考対象外になりました)

1番・秋山(シギリージャ):
ヘレススタイルのシギリージャの演奏。演奏にワイルド感やうねりが有り、コンパスのタメ感も良かった。

2番・北岸(サンブラ):
幻想的なイントロに始まり、合間合間にサビーカスの有名なフレーズを挟み込みサンブラの幽玄な曲想を表現していて良い演奏だった。

3番・大場(ソレア・ポル・ブレリア):
古典的なスタイルの演奏。ただしファルセータのコンパス感が平坦だった。それとレマーテの締め感をもっと表現した方が良いと思う。

4番・島田(マラゲーニャ):
リブレ部は概ね良い感じだったが、中盤トレモロのファルセータ部の雑音が気になった。終盤のコプラ部のタメ感は良い表現だった。

5番・内山(アレグリアス):
イントロはモデルノ風の良い感じ。全体を通してファルセータの音量が小さいためアクセント部分ばかりが目立った。

6番・北村(ブレリア):
ヘレスモデルノ風の演奏。躍動感が有り良かったが全てが前に押すばかりの印象になった。もう少し後ろに引く表現も混ぜると良くなると思う。

7番・池川(ロンデーニャ):
今回の演奏者中一番良かった。曲構成は良いが前半のリブレ部のファルセータではトレモロの抑揚をffに持ってゆく時にもっと音が前に出れば良かった。それと後半のリズム部でのピカードの音量がもっと豊かに出ると良い。

8番・岸元(アレグリアス):
ファルセータの中で時々コンパス感があまい部分が目立った。中盤から持ち直した演奏だった。

9番・前田(ブレリア):
不思議な雰囲気のイントロ。ブレリアに入ってからはパコや色々なスタイルを織り交ぜての演奏だったが、時折コンパスのもたつきが見えたのが残念だった。

池田瑞臣(現代舞踊協会)[Bg]

今回はバイレ・群舞が4作品。少量だが内容それぞれ個性的で、堪能十分であった。

1.スタジオ“hermanas”「シギリージャ」
6人の出演者、生命力をたたきつけるような白熱の力演。全力投球の緊張感あふれる動きの中で、自由奔放に叫び続けた6人の個性が、やがて一体化を思わせる過程に移行する手法に感動し、構成力の面白さを見た。

2.スタジオÁnimo「ソレア」
歩く3人の背後に、大自然の風景が広がり、平穏を十分に味わう3人の呼吸が聞こえてくる。無心の良さが無意識に強調されているようで楽しい。でも時には受難がある。そんな時の心の拠り所も踊りに加味されたら、一段と面白くなると思った。

3.ESTUDIO KEIKO Las TOMATE「アレグリアス」
赤いマントンを翻し、華やかで美しい。終始一貫この流れかと注目したが、中間、中央で集結し、水玉模様を生かした群の動き。まるで海中の生物の触角を思わせる怪し気な変貌。ひとつの宇宙感が感じられた。ここに創作意図が見えたようで魅かれた。

4.Las Ramitas「タラント」
赤い衣裳、明るく楽しい。さり気なく同じ動きを続けていたが、秘めた個々人の情熱が伝わって来るようで、人間の存在感が静寂の中に暖かく見えて来る。誇張しない優しさも。舞踊表現の一面なのだと興味が沸いた。

川上茂信(東京フラメンコ倶楽部)[C]

昨年に引き続き選考に参加させていただきました。昨年に引き続きアフィシオナードの感想文です。

前回も書きましたが、発音に注意すればもっと良くなるだろうと思った人が大勢いました。個々の音については、u に注意を向けていることが分かる発音をしていた人がいて、喜ばしく思います。気をつけたからと言って、すぐに自然な良い発音が出来るとは限りませんが、地道に努力を続けてもらえればと思います。一方、歌そのものは悪くないけれどもrrがきちんと出ていなくて興ざめ、という人が何人かいました。何とか頑張って欲しいと思います (ランカピーノのようにrrが震えないカンタオールもいることはいるのですが)。それから、l とrの区別にも注意を払ってください。あまり知られていませんが、実は母音と母音の間のrをlで発音してしまう人が少なくないのです。今回もいました。それで一瞬何と言っているのか分からなくなる、という程度ならまだしも、別の単語になってしまう可能性もありますから、注意してください。

さて、多くの人についてここを直せば良くなるだろうと感じた点は、歌詞の行のまとまりを意識することです。皆さんご存知でしょうがちょっと復習すると、歌詞は基本的には韻文で出来ていて、例えば8音節で1行、それが4行でひとつの内容になっている、という感じですが、この1行 (テルシオ) が歌う上での重要な単位であるわけです。メロディーの上でもひと区切りになるのが基本ですが、このテルシオ感が足りない人が結構いました。大きく分ければ2つのタイプがあり、ひとつはテルシオの終わりの区切り感が足りないものと、途中で音が切れる時に先に続く感が不足しているものです。もう1度、書かれた歌詞に戻り、意味の上でもメロディーの上でもまとまりのあるテルシオを見直すことをおすすめします。

中里眞央さんのカンテは、シギリージャに必要な気迫があって良かったと思います。ただ、声の力みが表現になり切っていないのと、フレーズの終わりで力が抜ける、つまりテルシオをしっかり歌いおさめていないのが気になりました。歌詞もあまり聞き取りやすくなかった。それから、次回は座って歌ってください。

齋藤克己さんのビタリータは、表現性という点で今回歌った21人の中で1番だったと思います。カンテ・デ・イーダ・イ・ブエルタが持ち得る深みを追求する方向性も良いと思います。ただ、表現がちょっとワンパターンでした。この手のカンテは、4行で完結する世界を積み重ねていく形ではなく、全体でひとつの内容を持っているので、それに応じた構成感が出せると良くなるでしょう。メロディーの細かい部分の処理も改善の余地があります。

遠藤郷子さんのカンテは、サリーダからマラゲーニャの世界に入り込むことが出来ました。最初のトリーニのスタイルは、メロディーも安定していて良かったのですが、表情付けが少しワンパターンで、力を込める場所が (メロディー的にも歌詞的にも)ちょっと違うかなと思えるところがありました。また、2番で発音の粗が目立ちました。私の知っている歌詞でしたが、丸々聞き取れないテルシオがありました。

さて、山本淳子さんですが、正直に言うとあまり記憶に残っていません。悪い印象もなかったということでもあるのですが、奨励賞のカンテを覚えていないのは素人の限界でしょうか。自分の書いたメモによれば、フレーズは良い。そう書いたということはテルシオの扱いが良かったのだと思います。私の中で随分高い評価だったはずなのですが、これ以上具体的なコメントができなくてすみません。不足している点としては、カンテが流れないという感想が書いてあるのですが、これも後付けの想像で説明しない方が良いだろうと思います。もしかしたらご本人には通じるかもしれません。

濱田吾愛(東京フラメンコ倶楽部)[C]

カンテに於いては、アフィシオン(愛情、愛好熱)がプロアマを超えることがある。これは私の師の言葉だが、今回はまさにそれが表れた結果のように思われる。賞を手にした4人の参加者中3人は、いずれもカンテのプロフェッショナルではない。かと言って、彼ら4人と残る17人との差が大きかったとは、私は思わない。賞を得なかった人々は、あと少し、あと一歩、何かが足りなかったのだ。僭越なのは充分承知の上で、21人の参加者について感じたところを述べたいと思う。なおこれはあくまでも濱田吾愛の私見であり、選考委員、ひいては協会の総意では決してないことを、どうか、ご理解いただきたい。

野中亮子さん。「大きな馬の子守唄」をイントロに使った。印象的だったが、5分の枠の中でそこに使ったエネルギーをシギリージャに集中させればもっと歌が締まったであろう。
熊谷善博さん。歌う前からハレオが飛ぶほどの人気者。しかしそれゆえ、その歌があまりにも、“熊谷善博”でありすぎる。その檻を突き破ったカンテそのものが聴きたい。
中里眞央さん。終始テンションが高く、上ずり気味の音程はともすると自棄に聴こえる。しかし最後に聴かせた息の長さに、翌日バイレ部門でも見せた破綻を怖れない面白味があった。
福田加弥子さん。さすがに落ち着いた歌いぶり。しかし、逆に落ち着きすぎて、後半のタンゴのテンポに若干乗り遅れたように思えた。最後もやや慌てた感があり惜しまれた。
小林カルメンさん。真っ直ぐな発声、ネイティブならではの自然な発語とイントネーション。最後まで賞に推すか迷った。もし違うパロであれば……との思いは今も残る。
小松美保さん。華やかな雰囲気はよいが、カンテソロにあっては、ずっとパルマがセコである必要はない。そしてあれだけ歌を詰め込むと、聴いていて慌ただしい。緩急も大切だ。
川村麻利子さん。ギタリストに遠慮したのか、なかなか歌に入れない。入っても自信がないのか、しばしばコンパスが甘くなってしまう。誠実な歌いぶりだけに勿体なかった。
齋藤克己さん。1曲入魂、という言葉はまさに彼のためにあった。プロの歌い手にも難しいビダリータを、決して滑らかとは言えないが一語一語噛み締めるように歌う姿、ギターとの呼応は聴き手の心を捉えた。
遠藤郷子さん。最近売れっ子になりつつある彼女は、しかし奢らず研鑽を積んでいる。丁寧な音取りからそれは伺えたが、デリケートな音程が要求される2番目の歌は今後の課題。
近藤リナさん。難易度の高いソレアに挑戦した心意気は買うが、全体をまとめる力が足りない。歌数を減らし、ひとつひとつの歌の精度を上げるのも勉強のうちであろう。
大西保孝さん。まじめにカンテに取り組んでいるのは伝わってきたが、気になったのはパルマ。踊り伴唱さながらに手が動き、そちらに気を取られて終わってしまったのが残念。
山田裕子さん。落ち着いた入りはよかったが、やはり途中からパルマが気になった。しかもそれがギターの導くテンションと合い切れず、その曖昧さが最後まで尾を引いてしまった。
工藤彩子さん。熟達の伴奏に乗り、ルンベーラとしての存在感と迫力を示したが、大ホールならではの振り付けを工夫するなど、大観衆にアピールするアイデアも必要であろう。
松岡恭子さん。コツを要する歌い回しのペテネーラを選ぶなどハードルを自ら上げてしまった感はあるが、やはり長年のカンテへの真摯なアフィシオンは胸を打つものがあった。
永井正由美さん。声はよく伸びて歌い口もスムーズなのだが、問題は曲がソレアであるということ。何か全体がさらさらと過ぎてしまい、後に重く残るものが得られなかった。
土井康子さん。得意のタンゴ祭り。セビージャ、レポンパ、エストレメーニョ、あちらこちら……理屈抜きに楽しいが、それで終わってしまった。そこに1本の芯があればよかった。
中山えみ子さん。声に勢いがあるのはよいが、装飾が多すぎて、チャコンの格調高いマラゲーニャが暴れていた。ベルディアーレスもしかり。ディクションの大切さを学んでほしい。
原恵子さん。声には伸びがあり、難しい歌をよく覚えたと思うが、いかんせん発声・発音がカンテに聴こえない瞬間があまりに多かった。ぜひ研究を積まれたい。
渡辺都美さん。じっくりとした入り、力みの抜けた自然な呼吸……。ところが2番目の歌の入りから、急に推進力が消えてしまった。エネルギー切れだとしたら、実に惜しい話だ。
深谷恵子さん。声を持った人だ。ボリュームがあるのはいいが、結局その声の厚みが常に歌を覆い、クライマックスを見えにくくしてしまった。ぜひ力の上手いコントロールを。
山本淳子さん。日本人がティエントを歌うとき、少しでも声の抜けが甘いと歌謡曲調になる。そのリスクを自然な呼吸と落ち着きある歌唱力で巧みに回避した実力は、やはり満場一致の奨励賞に値するものだったと思う。

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