2016年ノルウェーの首都オスロのオペラハウスのリハーサルルームで、公演に向けてのリハーサルに明け暮れる日々を過ごしていた。その問隙をついて郷土の誇る画家エドヴァルド・ムンクの『叫び』を共演者たちと共に観に行った。《生と死への不安感》が強烈に反映され、内なる叫びを強く放つその作品に触れ、胸がざわついた記憶がよみがえる。 人間は叫ぶ。 大声で 小声で 目で 心の中で。 今までどれほどの『叫び』を聞いただろうか。その反対の『ささやき』や『吐息』も入り交じって迫りくるフラメンコの深淵を垣間見る時間が、どれほど私の舞踊人生に深く染み入ったことか。それは私がフラメンコを創造のテリトリーとして選んだ大きな道義となっている。カラコル、マイレーナ、パケラ、カマロン、フェルナンダ、チョコラーテ……私の魂を奪った《叫び》声。 私の心に刻印された先人たちの叫びや甘い囁きをもう1ページ綴ってみたい。「愛と死」や「不安」、芸術家たちの辿る苦悩の道程、日常に溢れる違和感や不条理をありったけに叫ぶ、それは《今》なのだ。 小島章司