[Vol.4]フラメンコを始めるには?カンテ編
今や日本では、踊りやギターだけでなく、カンテの愛好家も増えてきました。踊りからカンテに興味を持たれる方も多いようです。
でも実際にカンテを学びたい!と思っても、どう始めればいいのかわからない人も少なくないでしょう。
そこで今回のコラムでは、“フラメンコの心”とも言われるカンテの学び方について、タブラオや公演など多方面で活躍中のカンタオーラ・川島桂子さんにお伺いしました。
カンタオーラ:川島桂子
アントニオ・マイレーナのレコードをきっかけにカンテ・フラメンコの世界に没入。ペペ島田らの下でコンパスを学びつつカンテを独習。渡西を繰り返す中でファミリア・アグヘータらと親交を深めながら研鑽を積む。第5回日本フラメンコ協会新人公演奨励賞受賞。2004年文化庁新進芸術家海外留学制度派遣員。
http://48canta.com/
1)川島さんご自身はカンテを学ぶ上で一番重要なことは何だとお考えですか?
◆たくさん、繰り返し、スペイン人のよい歌を聴くこと。これに限ります。
興味のある曲種や歌い手の物からでかまわないので、ひたすら時間をかけて何度も聞きます。
「わかんない!でも何か好きだ!!」でいいのです。
理屈からカンテに近づこうとすると、いろいろ間違えます。
小さな子供みたいに、初めは理屈抜きでひたすらたくさん、いろいろ、時間をかけて、聞くのがいいです。
言葉もよくわからず、雲をつかむようで遠回りに感じるかもしれませんが、これが一番よい方法です。
音源や動画は昨今はかなり簡単に手に入りますし、スペイン人のライブを見るチャンスも増えています。
インプットに手間隙をかけましょう。
そうしているうちに、耳や体がカンテに馴染んで楽しくなってきますので、歌いたい人は歌えるようになります。
歌詞のついている音源からどんどん真似てみたらよいと思います。
※ここで、お薦めの歌手・アルバムを一部紹介します。
■歌手
Perla de Cádiz:まさにカディスの真珠
Fernanda de Utrera:ソレアの女王
Antonio Mairena:カンテ・ヒターノのドン
Camarón de la Isla:カンテの革命児
■アルバム
「CANTA JEREZ」:生え抜きのヘレス人達によるフィエスタ
「ペリーコのアンソロジー」:あらゆる曲種を網羅
2)自分自身で聞くだけではわからない部分(たとえばリズムや発音など)はどうすればいいでしょうか。
◆自分でもちゃんと歌いたい…となった時に、いよいよ知識や技術が必要不可欠になってきます。
まずは聴こえるカンテを自分で真似ていくしかないのですが、その際「コンパス(リズム)」「スペイン語」「フラメンコ調のメロディライン」「曲種やスタイル」「発声」など、ハードルは無限に(笑)あります。
カンテはかなり堅牢な規律の上に表現の自由さが成り立っているので、ベースになる規律(コンパスやスタイルといったもの)を手間隙かけて理解していかなければならないのは避けられない道です。
また、1人で客観性なく歌の練習を重ねてしまうと、独りよがりな変な癖がついて全然とれなくなってしまう危険もあります。
この際、カンテをよく知っている人(カンタオール、ギタリスト、知識のある研究家やアフィシオナード)に、アドバイスをしてもらうことはとても有効です。
「歌いたい、覚えた、でもこれでいいのかな?」と思ったら、怖がらずにサークルやペーニャに参加して歌ったり、カンテのクラスに出て、自分が気がつかなかったことを指摘してもらうのもよいと思います。
スペイン語も、ある程度できるようになることを目標にしたいところ。
カンテは「民衆の言葉」と密着しているので、スペイン語、特にアンダルシア弁には慣れていきたい。
スペイン人にカンテを習いたくても、コミュニケーションが全然とれないともったいないですから。
お金をかけなくても、テレビ・ラジオ講座をはじめとして、アンダルシア弁もネットの CANAL SURラジオ等で聴くことができます。(フラメンコチャンネルあり)
耳を慣らすだけでも有効です。
3)バイレをすでに習っている人がカンテを覚えることでどんなことが役に立ちますか。
◆カンテの構造・骨組みを知っていること、そしてカンテの「心」のような物に触れていくことは、踊り手にとっても重要だと思います。
「カンテを踊る」というのは、バイレ・フラメンコの一つの究極の形と言えます。
少し気にするとわかると思うのですが、カンテは「12.1.2.3…」とカウントで行進曲みたいに歌われるわけではなく、もっと生々しく言葉であり、また譜面にできないほどファジーなものです。
だから、カンテが言いたいこと、そのコンパスや成り行きを読めないと、踊りで歌を受け止めることができません。
カンテを知らなければ、カンテそのものと親しんでいなければ、カンテを踊ることはできない。
「どこの馬の骨かわからない異性と、濃密にスキンシップしなきゃならない」くらいには無理がある。
きちんと歌えなくてもいいのです。
カンテを好きでたくさん聞いたり見たりしていれば、カンタオール達の呼吸の波を掴まえたり、歌そのものにすっぽりと自分がはいれる時がくるはずです。
たとえ振りが同じでも、カンテに感応している踊りと、そうでない踊りとでは、伝わってくるものの大きさが全く違うと私は感じています。
◆「謎」かな。
何が好きかと言われても説明しきれない。魅力は何ですか?と言われてもうまく言えない。
でもカンテは、謎の宝に満ちています。
何故このソレアを聞いて知らない間に涙が出てたんだろう?
何故このシギリージャで椅子から転げ落ちそうになったんだろう?
観客席で口が勝手に開いて白眼になっちゃってる自分を抑えられないのは何故だろう?
私の人生からほど遠い物事なはずなのに、私の細胞は反応して震えてしまう。
カンテは私にとって、「カッコいい音楽」ではくくりきれない、アホなほどデカ過ぎて手に負えないものです。
でも洗濯機に巻かれるみたいに続けて来てしまいました。
何故だろう、何が違うんだろう、この凄まじさの理由は何だろう、と思っているうちに今日に至ります。
そんなふうにカンテの謎を追いかけることが、とりもなおさず私自身の「自分探し」「生き方探し」につながっていたかもしれません。
一生解決しない、尽きない謎と付き合うのは、時に疲れますが幸せなものです。
皆さんもぜひ、カンテの渦に巻かれてみてください。
→川島さんおすすめのCDを探すならこちら 【アクースティカ】http://acustica-shop.jp/